「知る、考える裁判員制度」

風の吹くまま、気の向くまま
何を読むかは賽の目次第
裁判博徒の看板背負って
歩いてみせます読書の天地
題して


The Book Review


今回、紹介する作品は、
竹田昌弘「知る、考える裁判員制度」(岩波書店 定価840円)

知る、考える裁判員制度 (岩波ブックレット)

知る、考える裁判員制度 (岩波ブックレット)

内容Amazonより):
有権者であれば、候補になる可能性がある裁判員。どのような過程で選ばれて、実際には何をするのか。この制度には、どのような問題・課題があるのか。事件を伝える報道そのものも変わるのか。裁判員制度全体と関連の用語などを、わかりやすく解説する。


著者(書籍紹介文より):
1961年富山県生まれ。85年早稲田大学法学部卒。毎日新聞記者などを経て、92年に共同通信記者となり、宇都宮支局と編集局社会部に在籍。
社会部では、検察、裁判、法務省などを担当した。2002年に大阪支社社会部次長。05年から編集局社会部次長。共著に『裁かれる教祖』(共同通信社)や『銀行が喰いつくされた日』(講談社+α文庫)がある。


と、いうことでレビューは「続きを読む」からどうぞ。


さぁ、という訳で、難しい教科書形式の本を読んでなんだか学生時代の若かりしきころを思い出させる「スタンドバイミー」型書籍評論コーナー「The Book Review」でございます。
今回取り上げる作品は、初の裁判員制度関連書籍「知る、考える裁判員制度」という作品です。


さっそく内容に移っていくんですが、まず大前提として言っておきます。
私、“普通”は裁判の傍聴を行っているだけであって、裁判員制度に詳しいわけではありません裁判員制度に関してのWikipediaの記事も長くて読み切れないほど、そんなに興味があるわけでもありません。
まぁ、参加要請が来たならやりますけどね、くらいのスタンスの男が読んだというのを前提として聞いてもらえるのであれば、まず結論


まぁ、よくできた内容なんじゃないですか


いろいろと細かいことはこれから言っていくとしても、よくまとまった内容だと僕は思いました。もちろん、法律関連の話や単語は数多く出てきますので、すいすい読めるかと聞かれたらまぁ読めないんだけど、そもそもの文章構成なんかは非常に読みやすかったかな。
例えば今後、裁判員制度関連の書籍を読むとするならば、この本ではこう書いてあったけどといったような、いい意味で比較対象として挙げやすい書籍、基準点的な書籍だと思います。


この本以外、裁判員制度書籍は読んでいないので他のがどうだかわかりませんけど、今回の本が何より優れているなと思ったのが、第1章に裁判員になったと仮定して、実際の裁判の流れを説明していることかなと。
起承転結という言葉に倣うならば、最初は制度の説明から始まって、徐々にそれを膨らませていって、最後の総まとめとして実際の裁判ではどう進むかという方が話の流れには乗りやすいとは思うんですね。ただ、第2章は実際に制度についての解説になるんですけど、この辺りって僕は読んではいたものの、難しいから右から左へ受け流していましたので、仮に冒頭からこの章が始まると考えると、読む気は失せていたかなと。そういう意味では、裁判の現場に携わっていると考えると、少なからず興奮はしますし、作者の意図にがっちり心掴まれてしまった感があります。
僕が心掴まれてしまった、裁判例は仮想の検察官が起訴状を朗読してくれます。

被告の女性は日ごろから暴力を振るわれてきた交際相手の男性と自宅で口論となり、男性から菜ばしを突きつけられたことから、とっさに殺害しようと決意して、台所から包丁を持ち出し、前屈みになっていた男性の背中に包丁を一回刺したうえ、立ち上がった男性の正面から右腹部に包丁をもう一回突き刺し、男性を失血死させたものである」(本文21〜22ページより)

で、ここから証拠が裁判員に示されたり、被害者家族や被告人質問などが行われ、どう裁判が推移していくかを見ていくんですね。ここらの描写は、今後実際どうなるかはわかりませんけど、リアルに描けているのではと思います。
問題は、今の起訴状が読まれたページに挿絵があるんですね。下の画像ですけど。

何、このラフスケッチ?という突っ込みもさることながら、この画像ではわかりにくいかもしれませんが、被告人席に座っているのがなんです。
どうして、そういうdetailをしっかりと描かない!?ここで、あれ?被告人女じゃなかったっけ?とか思って読み返したりしちゃったし。
あと細かいこと言っちゃうと、

裁判員が公判や評議で拘束される時間は、一日五―六時間程度と言われています。裁判員は、裁判所を出て、そのまま帰宅する人、会社に電話している人、知人との待ち合わせ場所に急ぐ人などにわかれました。(本文36ページより)

この裁判員のその後の描写っていうのは、別にあなたが描かなくても……。リアリティを深めたいのは結構ですけど、自分で作った世界を広げ過ぎて、なんだか楽しくなっちゃったのかなと思っちゃいました。まぁ、これは重箱の隅なんでどうでもいいんですけど。


第2章の「どうして導入されるのか」という章、これは読み飛ばしても何の問題もないと思います。はっきり言って、僕は何も頭に残っていないです。正直しんどかったですね。
第3章「どんな問題点、課題があるのか」、第4章「どのような影響があるのか」、これらは裁判員制度に対して比較的、否定的な見解を示しているんですね。で、ここが問題だと思うのが、この本を通じて裁判員制度が実施されるにあたっての肯定的な意見というのがあんまり紹介されていないと思うんですよ。
ジャーナリストさんの意見の引用で、結構、過激なことも言ってるんです。

「これまで無実なのに有罪とされた場合『権力による人権侵害だ。司法権力は許せない』と言えた。しかし市民も参加した裁判員裁判の結論だったら、市民社会すべてに否定されたことになってしまう。これはリンチ。最も許せないところはそこだ。裁判員制度は一種の徴兵制だ。公共のため、市民の義務として個人生活を犠牲にすることを強いられる」(本文103ページより)

確かに、今のこの文章なんて僕だって納得させられる部分はあるし、そもそも制度に対して僕だって不安に思う部分はあるんです。でも、今のマスコミって裁判員制度に対して否定的な見解がそもそも多いじゃないですか。そんな中、これ以上否定的見解を並べられたところで……という気持ちはある。文章に引用されている、渡辺えり子さだまさしにいちいち不安を煽られなくたって、みんな不安は感じていますよ。
裁判員制度というものに対して、わざわざ150ページも費やしているんだから、もうちょい肯定的な視点も欲しかったかな。この人、本当に数多くの文献等は調べてすごいなとは思うのね。でも、引用しているのはほとんどが日本の識者なのね。でも、日本じゃまだやってないんだから、否定的というか不安要素が強いに決まってるんだよ。
だったら、制度は多少違えど外国では陪審制を取り入れている国は多くあったりするんだから、その国では実際にどういう問題が起こっていてそれをどう解決していったのかという観点での意見は欲しかったな。


とはいえ、やっぱりこの人よく調べているなと思うんです。否定的な意見も持ちたくなるよなというような、裁判員制度の小さい穴は広げているんです。
いくつか抜粋すると、

  • 裁判長は裁判員制度候補者に対して、その人が先入観等で不公平な裁判を行わないかどうか質問によって判断するんですけど、その質問は一人数分程度

裁判員に余計な負担を減らすなどの意図があるらしいんですけど、裁判員候補者として選出されている以上は、すでに仕事を休むとかしているんだから、そこはむしろ時間をかけて審議するポイントではないのかな。米国は陪審員の選出のために、一人一時間以上かけることもあるそうです。
あと、ここね。

  • 対象事件について、松尾名誉教授は社会的関心の高い重大事件にすると、過熱した報道が裁判員の大きな負担となることなどから「最初は比較的中間的な事件から始めて、それが定着したあたりでだんだん拡大していくという方が無難」と指摘しましたが、審議会では「国民の関心が高く、社会的にも影響の大きい事件にすべきだ」という意見が大勢を占めました。(本文58ページより)

え?なにこの根拠のない理由裁判員制度の不安の大きな一要素として、見ず知らずの人に死刑判決を出せるのかとか、事件の大きさに関するものも多いと思われる中で、こんなやるなら派手にといった「わっしょい」主義で対象事件が決められていたとは驚きました。


先ほどから言っている通り、肯定的な意見はあまりありません。なので、この一冊で裁判員制度そのものを総合的に理解できるとは思えません。ですが、数多くの意見などから問題点を浮き彫りにし、現状わかっている範囲のことは結構伝えようとしているのかな。
裁判員制度に関して、勉強してみようとする気のある人ならば、Youtube

この動画を見る時間があるならば、ちょっと時間はかかるけど、断然この本を読んだ方がいいかなと。というわけでナイツの言うことは絶対だ!という病的なほどのナイツのファン以外の人に向けては、




お薦めです!


さぁ〜て、長くなってしまいましたが難しい本から解放されたぞ。次回の賽の目はこちら。


1枠. 大河原眞美「裁判おもしろことば学」

裁判おもしろことば学

裁判おもしろことば学

これ、いつだったか裁判傍聴の大先輩・阿曽山大噴火さんのブログで紹介されていました。どんな本かは知らないんですけどね、裁判に出てくる言葉って難しいかったりするからね、それらを説明するのかな?違うのかな?


2枠. 今井亮一「裁判中毒―傍聴歴25年の驚愕秘録」

裁判中毒―傍聴歴25年の驚愕秘録 (角川oneテーマ21)

裁判中毒―傍聴歴25年の驚愕秘録 (角川oneテーマ21)

こちらも裁判傍聴の先輩の書籍です。ただ、僕、今井さんの名前は伺ったことはあるんですけど、文章は一切拝見したことがないんですね。そういう意味で、とても楽しみです。


3枠. 清原博「裁判員 選ばれる前にこの1冊」

裁判員 選ばれる前にこの1冊

裁判員 選ばれる前にこの1冊

2回連続の選出です。今回のに比べて、この裁判員本はどうなのか?ある意味、熱が冷め上がらぬうちに読んでおいたほうがいいのかもしれませんね。


4枠. 田中克人「殺人犯を裁けますか?―裁判員制度の問題点」

殺人犯を裁けますか?―裁判員制度の問題点

殺人犯を裁けますか?―裁判員制度の問題点

これも2回連続ですね。タイトルに全てが集約されている気がします。ぜひ読んでみたい作品の一つです。


5枠. 北尾トロ裁判長!ここは懲役4年でどうすか

裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫)

裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫)

これね、この前傍聴したとある裁判をきっかけに、どうしてもレビューしたい書籍なんですよ。さっそく賽の目に上がってよかった。


6枠の自己推薦枠は. 北尾トロ裁判長!ここは懲役4年でどうすか

裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫)

裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫)

これはさっきも言った通りです。さっきはくじで賽の目に選ばれましたけど、自力でもねじ込んでみました。


なんだか今回は、どれに当たっても良さげな気がするぞ。
それでは参りましょう。


Let’sサイコロTime!!


ドキドキ
ドキドキ


5枠〜。
よし来た!! 「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」を読んでみま〜す。

裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫)

裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫)

これ、ものすごく売れている本ですからね、本当に下手なこと書くとネット上でフルボッコに合う危険性にビクビクしながらレビューしていきたいと思います。