僕だってたまには怒ります。

裁判No.13
事件:「業務上横領」 概要)○○の3,000万円強の金銭を不正利用。
被告人:推定50代前半の男性
傍聴席:14人


裁判の中身は「続きを読む」からどうぞ。


どうも皆さん、おはようございます、こんにちは、こんばんは。
自分でも記事が長い長いとはわかっているんですが、今回ばかりは許してください、こと「普通」です。
あとですね、タイトルでは「たまには怒る」とか書いていますけど、普段の僕は基本キレキャラです。どうでもいいですね。


前回の「The Book Review」の終わりに、最近傍聴したとある裁判をきっかけに次回作品をどうしてもレビューしたいって書いたんだけど、そのとある裁判ってのが今回のなのね。だから、言うなれば、今回の傍聴記は次にやるレビューのための完全なる前振り。
それを前提にどうぞ。


検察官が求刑を行う際に、「一般予防の見地からも被告人には厳罰をもって、なんちゃらかんちゃら」っていうことを言うことがあるんですね。これは、同様の犯罪を犯したら、こんな重い罪になっちゃうんですよっていう、言い方悪いかもしれないけど、見せしめみたいな意味なんですね。
よくこの言葉が使われるのが、飲酒運転やオレオレ詐欺悪い意味で流行っている犯罪って、真似しちゃう人とかも多いから、そういう意識づけも必要なんでしょうね。ただ、マスコミはだいたい事件が起きたことは伝えるけど、実際それがどれくらいの罪なのかは伝えないから、検察官がいくら訴えてもあまり予防にはなっていないのが残念。
今回の裁判の求刑でも、この言葉が使われたんだけど、ホントに今回の件は同一犯を作らないためにも厳罰に処してほしいと思っちゃって。裁判見てると、一回ごとに被告人や被害者に同情してもいられなくなるんだけど、珍しく腹立っちゃって
あ、あと今回の話、結構堅い話なので、そこんとこ了承していただける方のみ先へお進みください。


さて、業務上横領ですが、さっそく調べてみましょう。今までの「mini六法2005」が、今回からは「ポケット六法2007」に変わりました。2005年版くん、僕の学生時代からのお勤め御苦労様でした。

(業務上横領)
第二五三条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。(ポケット六法平成19年版、平成18年10月7日、有斐閣

さて、今回の話で被告人は何を横領してしまったかという話になると思うんですけど、今回傍聴したのって2回目以降の裁判で、事件概要が説明される検察官による「起訴状の朗読」がされなかったんです。まぁ、被告人質問等で徐々に明らかにはなってくるんですが。
まず検察官が明らかにしたのが、被害女性の証言。
どうやら、前回の裁判で弁護士は証拠として、被害者が被告人にそこまでの厳罰は求めないという嘆願書を提出したらしいんです。その嘆願書に対して、検察官の被害者に対する聞き取り。

私は、被告人と早く縁を切れるものと願い署名をしました。軽い処罰を望むと書かれていたそうだが、それは本心ではありません。嘆願書が、裁判においてそこまで重要なものだとは思っていませんでした

こういうこともあるんですね。映画「それでもボクはやってない」を観たことある方いらっしゃいますか?

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あの話では、被告人(加瀬亮)が、警察での取り調べにおいて、ロクに中身を確認せず調書に署名したことで、あとあと不利になったって場面が確かありました。実際の裁判でもそういう主張は聞いたりします。細かく書面を見なかった今回の被害者も悪いとは言えるんでしょうけど、まぁいきなり訳わからん書面見せられて、それを細部まで見渡せという方が無理な話で。弁護士でもこういうことやるんですね。
つまり、検察官の主張は、前回出された弁護士の嘆願書には何の意味もないということ。
一方で、弁護士は医者からの聞き取り調査を証拠として提出しました。

被告人には、うつ病患者特有の症状が見られる。また、躁(そう)うつ状態は、必ずしもの因果関係はないが、過剰に金を使うなどの症状も見られる

あ、そうだ忘れてた。

被告人は推定50代の男性で、今の医者からの言葉からもあったとおり、うつ病患者。また、脳梗塞も起こしたそうで、それによって左半身があまり自由ではないそうで車イスで裁判を受けています。

さて、ここから被告人質問で徐々に事件の概要が明らかになってきます。

弁「平成14年に、被害者男性の口座から500万円を勝手に下ろして利用していますね。これは、どうしてとってしまったのですか?」
被「……生活のために」
弁「具体的には何に使ったんですか?」
被「競馬です」
弁「何で、競馬にそんな大金を使っちゃったんですか?」
被「大阪競馬場で詐欺師に騙されまして……」
弁「どういうことですか?」
被「絶対に当てるという人がいるっていうんで……」
弁「誰かに相談とか考えなかったの?」
被「レースも近かったんで」

僕はこのいった病気について詳しくないんでよくわかりませんけど、被告人が躁うつ状態によって金銭感覚がマヒしていたとします。それで、使っちゃいました。もちろん被告人、悪いことしてます。
でも、この人それをその詐欺師だか予想屋のせいにしてるでしょ?でも、それはズレてんじゃないの?。

弁「平成16年に、被害者女性の生命保険を解約し577万円を手にしましたよね。これは、なぜですか?」
被「仕事が見つからなくて、先行きが不安に思えまして」
弁「何十万もする時計を買っては、すぐに質屋に入れたりしている。それは、あまり普通の行動とは思えないのですが」
被「やっぱ、うつ病でも客として見てもらえることが嬉しかったこともありまして」
弁「同じく平成16年に、被害者男性の生命保険を解約して2063万円を使っています」
被「これも、生活の不安の解消のためで……、仕事が全然見つからなかったんです」
弁「そこで、先物取引に手を出して失敗してしまったようですが」
被「はい、絶対に儲かる話と聞いたので……」

被告人の精神状態はわかりませんが、確かに被告人騙されたのかもしれません。まぁ、最初の競馬は自分で乗っちゃってるから騙されたってのとは違うと思うけど。でも、後で裁判官も怒るんだけど、自分で責任をとる気がこの被告人にはないのね。
これホント表現気をつけなきゃって思うんだけど、病気によってお金を浪費してしまいました。これは被害者感情を一切抜きにすれば、全く理解できないということではない。でも、例えそうだとしても、自分がやってしまったということを反省しないでいいわけがない


さて、では実際に被告人が使ったこのお金というのはどこから来てるのかというのが気になるところだと思います。成年後見人制度ってご存知ですか?僕は正直知りませんでした。
Wikipediaやら「ポケット六法2007」を見る限りでは、多分、親権を持つ人がいない未成年に対し、親権を代わりに持ってくれる人を未成年後見っていうんですね。これ民法の話らしいんですけど。
今回の被害者の場合、両親を理由はわかりませんけど亡くしておりまして、その亡くなった両親の兄弟であった被告人が未成年後見人に名乗り出たんですね。そして、被告人が使ったお金というのは、亡くなった両親が被害者兄弟のために残しておいたお金だったんです。

検「1回目の横領が行われた後、仕事の退職金や自宅を売却することで4900万円手に入れてますよね?どうして、それですべて被害金を還付しなかったのですか?」
被「ブランド品や飲みに行ってまして」
検「例えそうだとしても1年で使う額ですか?最初から、後見人のお金を全て使い切るつもりで、後見人に名乗り出たんじゃないんですか?」
被「そんなことはありません」
検「未成年後見に名乗り出たとき、調査官には競馬にはまっていることを言いませんでしたよね?」
被「それは、言う必要がないと思ったので」
検「そんなこと言ったら、未成年後見に選出されないと思ったからじゃないんですか?」

これ知らなかったんですけど、最近こういった未成年後見人がお金を横領する事件が増えているらしいんです。で、今では即解任&刑事手続きらしいんですけど、当時はまだそこまでじゃなくて、んでさっき検察官が言った4900万円を手にしたことから返済可能だろうということで、うやむやになったらしいんですね。
ちなみに、被害者の2人は今、大学生で奨学金とアルバイトでなんとか生活しているとのこと

検察官の求刑は、昨今増えてきている未成年後見という立場を悪質に利用した犯罪には一般予防の見地から厳重に処罰する必要があるとして懲役三年

それに対して、弁護士による汲むべき事情を訴える弁論。

  • 被告人は躁うつ状態であって、事件当時金銭感覚が頓馬していた。

まぁ、これはわかりました。でも、こっから。

  • 被害金3140万円のうち、すでに910万円は返還されている(被告人が手にしてたのは4900万円です)。
  • 横領したお金を回復させるために、一時的な借用として使ったものであるから悪質性には乏しいと言える。
  • 競馬場の詐欺師や先物取引に騙されたのであるから、常習性が顕著とはいえない

もちろん、この人、弁護士です。被告人を弁護するのが仕事だとはわかりますよ。でも、「悪質性に乏しい?」、「常習性が顕著とはいえない?」これってマジで言ってんの?
で、実は今日この裁判、判決だったんです。僕行けなかったんで、僕のアシスタント君に行ってもらったんですけど、懲役二年六月の実刑判決だったそうです。
これは、被告人の病状等も考慮しての判決だとは思うんですけど、率直に思いました。軽い。法律的な妥当性は知りませんけど。