「あなたも裁判員―漫画で読む裁判員制度」

風の吹くまま、気の向くまま
何を読むかは賽の目次第
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題して


The Book Review


今回、紹介する作品は、
久保内統、「あなたも裁判員―漫画で読む裁判員制度」(日本評論社 税込み1,365円)

あなたも裁判員―漫画で読む裁判員制度

あなたも裁判員―漫画で読む裁判員制度


内容Amazonより):
2009年に始まる裁判員制度。元祖裁判員マンガが、テーマと内容も新たに登場。近い将来、裁判員候補に選ばれたときに手元に置きたい1冊。


著者(書籍紹介文より):
1972年、東京都生まれの弁護士。1996年、慶應義塾大学卒業。2000年、弁護士登録。2003年、第20回日弁連司法シンポジウム運営委員会幹事。裁判員制度に関する他の著作に「招集通知―あなたが裁判員になるとき」など。


と、いうことでレビューは「続きを読む」からどうぞ。


さて、過度な期待をしていたけど実際目の前にしてみたらそうでもない「北海道札幌の時計台」型書籍評論コーナー「The Book Review」のコーナーでございます。
今回紹介する作品は、「あなたも裁判員―漫画で読む裁判員制度」という作品。
この作品は、2003年に同名の本が出て、裁判員制度に関して様々決まったことを修正し、第2版として刷り直したもののようです。漫画という切り口にひかれまして、早いうちに読みたいと思っていた書籍の一つでございました。
その念願の書籍を読んだ感想ですが。


まず、本文の構成。序章として裁判員制度について文章での説明が10数ページほど。そこから2つの事件を裁判員がどのように裁くかを漫画で描いています。

で、写真を見ていただければわかると思うんですけど、一番右が漫画の単行本と呼ばれるサイズ。真ん中が書籍の単行本と呼ばれるサイズ。それと比べちゃうと明らかに大きくて持ち運びに便利とは言えないし、電車の中で読んでるとメッチャ裁判員のことを勉強する気のある人に思われているようで視線が痛かった。
まぁ恐らく、この版型にしたのは、漫画の画を大きく、文字も読みやすくという配慮のためだと思うんだよね。
ただ、それがまた別の問題につながってて、序章に裁判員制度の文章の説明があるんだけど、版型が大きいもんだから文章が3段構成なのね。これが法律の話ですからねぇ、正直しんどい。

バトル・ロワイアル

バトル・ロワイアル

この作品もねぇ、2段構成で結構しんどかったけど面白かったからねぇ(もちろん2作目じゃなくて、1作目ですよ)。3段構成で法律の話されちゃきついね。まぁ、16ページ程度なんで我慢しましょう。その中で、やや気になる記述が。

犯罪に対する刑罰が軽すぎるなどとの世論もあって飲酒運転などの厳罰化が行われました。有る意味では、法律の専門家ではない皆さんこそが、より適切な刑罰を判断するのにふさわしい感覚を持っているともいえます。マスコミの報道や一時的な感情に流されて厳罰を言い渡したり、過去の類似犯罪と比較して余りにバランスを失するような刑罰を言い渡すのは問題であると言えますが、裁判員になった皆さんの良識をよりよく反映させることは必要です。(14ページ)

ちょっと長くなっちゃいましたけどね、大事なことなんで。
僕、この辺りはあんま理解できなくて、今までは刑が軽かったとされる飲酒運転が世論などにより厳罰化が行われた、ということに対してこの著者は適切な判断だとしているよね。確かに、5年以下の懲役刑(確かそうだったはず)は、充分だったとは僕も言わないよ。
でも、世論の影響もあって厳罰化が行われているのであれば、この著者が問題としている、マスコミの報道などによる一時的な感情に流されて刑罰を言い渡す行為に少なからずリンクするんじゃないかなぁ。この人が言っている、適切な判断、良識って言葉こそ、マスコミの報道などによって作られているものではないのかなぁ。ってか、良識って何よ?と思っちゃう。
裁判員制度では、ちゃんと自分に人が裁けるのだろうか?と疑問に思う人が多いはず。その問いに対して、この人はなんかありきたりな一般論で片づけてる気がしてならなくて、この辺りは不満に思っちゃったんだよね。


まぁ固い話はいいか。漫画の話に移りましょうか。

この画は、この本の裏表紙にもなっています。このうさんくさいオッサン、このセリフ、そしてこの顔を見てどんな場面を想像しますか?無罪を主張している被告人が、検察官によって証拠を突きつけられたとき、まぁこんな感じですかね。
でも、まさか、法廷の中で同性愛者であることをカミングアウトさせられるオッサンだとは誰も思わないでしょう。裏表紙にまで晒されて、かわいそ過ぎる……。なんで、この人が裏表紙飾ってるんだろう。
なんていうか、この漫画、妙なディティールにこだわり過ぎてるのね。このオッサンも同性愛者である意味なかったし、余計な設定が多い。その割には、それらの設定が活かされていない


例えば、裁判員の一人に怪しい占い師が選ばれます。常にタロットを片手に持っています。
そしたら、「あなた、人の運命をそんなカードで決めようっていうの?目の前の事実だけで判断すべきだわ!」みたいな嫌われタイプの女が出てきそうなものじゃん。でも、そんな展開にもならず、独り言で「何回占ってもわからないわ」とか言うだけで、何も裁判にもこの話にも絡んでこないの。どうして、コイツをキャラクターの一人に採用した?
あと、もう一人。車イスに乗った男性裁判員に選ばれます。
そしたら、「行動が自由にとりづらいので、裁判員はやりたくありません」に対し「それは理由にはなりませんので、お越しください」みたいな形で裁判員の欠格事由の説明をできたりするわけじゃん。でも、驚くことに、車イスには一切触れないんですよ。全然、裁判員制度と登場人物に整合性が見られないんですよ。
それでね巻末に、漫画で登場したキャラクター数人にインタビューをするという、自分の作ったキャラと対談する水島新司ばりに恥ずかしいことをするんだけど。

その中で、普通の主婦が出てくるのよ。その主婦の趣味が、「こうみえてもマリンスポーツ」って設定だったり、別のオッサンが他の裁判員から「いかついお喋り男」だと言われていたとか告げ口するシーンとか、ホントにどうでもいいところだけ広げて、肝心の裁判員であることについては、大して広げない。なんか、自分の中で世界が広がりすぎてるんじゃないでしょか。


では、実際の裁判の様子や、評議している様はどうなのか。

原「ちょっと兄さん!私たちはあの世の話をしてんじゃなくて、いまはこの裁判の話をしてんのよ!神様でも仏様でもなく、ただの人としての一生懸命考えているのよ。それを「仏の教え」だなんて言ったら、議論にもならないし卑怯よ。それなら裁判なんかいらなくなるじゃない」
永島「なんだと!お前はどう考えるかって聞くから俺の考えをいっただけじゃないか。だいいち、さっきから聞いていれば、なんで加害者の味方ばかりするんだ、被害者はどこへ行ったんだ、被害者の気持ちはどうでもいいのか!?」(90ページ)

随分と白熱した議論になってますよねぇ。裁判員になったら、見ず知らずの人とこんな熱くなっちゃうのかもしれませんよ。
でもね、今の場面、


漫画では描かれていないんです
「漫画では割愛されていますが、評議の際には次のような議論もされていました」
とか言って、文章で説明しているだけなんですよ。なんで?そこ、すげぇ重要なんじゃねぇの。


だから結局ね、漫画で本当に描くべきことを描かない。漫画が売りのはずなのに、文章に頼る。結局は、なんかありきたりな感じで丸く収めて、はい良かった良かった、でまとまってるんですよ。
話の途中で、いくらでも裁判員制度のダークな部分を表すチャンスもあったのに、そこは正義で全てが万事解決。結局、裁判員制度を普通の人にも参加できるものですよ〜って紹介したいだけだから、なんか不快な気分になってもらっちゃ困るんだろうね。
全日空が撮影協力しているから、飛行機墜落シーンとか乗客がビビるシーンはカットせざるを得なかったハッピーフライト

ハッピーフライト スタンダードクラス・エディション [DVD]

ハッピーフライト スタンダードクラス・エディション [DVD]

的な、ゆる〜い作りですね。僕は、ハッピーフライト観てないんで、なんとも言えないですけど。
まぁそんな訳でね、……なんて薦めればいいんだろ?……ダメだ、何も思い浮かばない。まぁいいや、とりあえず




お薦めです


ぬる〜い雰囲気を感じたい方はぜひ。
さて、気を取り直して、次回の賽の目にいきましょう。次回の賽の目はコチラ。
1枠.阿曽山大噴火辛酸なめ子「B級裁判傍聴記」

B級裁判傍聴記

B級裁判傍聴記

この本、書店でも見たことないんだよなぁ。でも、阿曽山さんと辛酸なめ子のコラボは興味あるなぁ……。


2枠.森達也「死刑」

死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う

死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う

うわぁ〜重そうなの引いちゃったなぁ。ただ、これ評判はいいんだよな。でも、個人的に森達也は……こんな話はいいか。


3枠. 長嶺超輝罪と罰の事典-「裁判員時代」の法律ガイド」

罪と罰の事典-「裁判員時代」の法律ガイド

罪と罰の事典-「裁判員時代」の法律ガイド

これね、知らなかったんですけど、Amazonの内容紹介見たら結構面白そうなんだよなぁ。ちょっと高いけど。


4枠. 門田隆将、井上薫「激突!裁判員制度裁判員制度は司法を滅ぼすvs官僚裁判官が日本を滅ぼす」

激突!裁判員制度―裁判員制度は司法を滅ぼすvs官僚裁判官が日本を滅ぼす

激突!裁判員制度―裁判員制度は司法を滅ぼすvs官僚裁判官が日本を滅ぼす

これは、最近よく見かけるんですよね。また僕、そのうち書くと思いますけど、この井上薫って著者が……って感じでして。


5枠. 丸太隆「裁判員制度

裁判員制度 (平凡社新書)

裁判員制度 (平凡社新書)

また、出たよこの作品。どんだけ読ませたいんだろ。最近、また裁判員関係の本が増えてきてますからねぇ、こんな漠然としたタイトルつけられても困るんだよなぁ。


自己推薦の6枠. 郷田マモラ「サマヨイザクラ(上下)」

サマヨイザクラ裁判員制度の光と闇 下 (2) (アクションコミックス)

サマヨイザクラ裁判員制度の光と闇 下 (2) (アクションコミックス)

これも興味あるんですよね。それにほら、今回も漫画だったから、それとの比較という意味でも読んでみたいし。


さぁて、なんか今日は粒揃いな気がするぞ。それでは参りましょう、


Let'sサイコロTime!


ドキドキ
ドキドキ



3枠〜。やった〜、「罪と罰の事典-「裁判員時代」の法律ガイド」を読みま〜す。

罪と罰の事典-「裁判員時代」の法律ガイド

罪と罰の事典-「裁判員時代」の法律ガイド

というわけで、まずは書店で買ってきま〜す。