正義感から泥棒する女

裁判No.21
事件:「窃盗」 概要)ロッカーから財布を盗む。
    「器物損壊」 概要)自転車をぶっ壊す。
被告人:30代前半の女性
傍聴席:3人


裁判の中身は「続きを読む」からどうぞ。


最近は雨が降ったり、風が強かったり、急に暑くなったりと天気の変動が激しいですが、いかがお過ごしでしょうか「普通」です。
ちなみに、僕は大学生のころ、雨が降ったら休むというルールのもと生活していましたので社会人生活が辛い辛い。
今回もはりきって参りましょう。


今まで何度か、ヤクザ屋さんの裁判って見てきたんですけど、裁判を受けているヤクザ屋さんはいたって真面目というか実直で、言ってることがどこまで本当かはわかりませんし、反省の度合いもわかりませんが、ハキハキと喋るし反省の弁も口にします。
ときどき、裁判で暴れる人っていないの?って質問を受けるんですが、それは見たことないですね。傍聴席に座っているヤクザ屋さんは、何もしなくても恐いですけど、被告人席に座っている人は、まぁ暴れるはおろか言葉づかいも非常に丁寧ですよ。いい意味か悪い意味か慣れてるんでしょうね。
被告人って、普通罪を軽くしてほしいわけですから、裁判官の心証を悪くしたくはありません。だから、明らかにネコかぶってるっぽいなぁとは思っても、態度は静か、言葉づかいは丁寧って人が多いですね。
今回の被告人を除いては。

被告人は30代の女性。スーパーでパート従業員として働いていた被告人は、

  • 60代女性の従業員のロッカーに入っていた財布を盗み
  • 40代男性の従業員が通勤に使っていた自転車をパイプのようなもので叩きつけ乗れなくし
  • 60代男性の従業員のロッカーから同じく財布を盗んだ疑い。

続いて、罪状認否*1
そのぉ、なんていうかこの被告人、言い方気をつけなきゃいけないけど、う〜んヒステリックの気があるっていうのかな、全体的に言葉が厳しい厳しい。

裁「では被告人にお聞きします。今、検察官が読み上げた起訴状に何か間違っている点はありますか?」
被「えぇ、だから警察でも何度も言いましたけど、何も間違いはありませんから

恐っ!!
そりゃあ、何度も同じこと聞かれてイライラしているかもしれないけどさぁ、そりゃあこれくらいの犯行なら執行猶予つくだろうけどさぁ、何でそんなに怒ってるんだよ。
で、これから検察官が調べた証拠とかが明らかにされるんだけど、この事件なかなか面白いのが財布を盗まれた2人なんだけどお金はとられてないの。
財布を盗って、自分の部屋に置いていたところをほかの従業員を家に招いたときに発覚しちゃったんだけど、盗ってから1月以上経っていたのに中のお金には一切手をつけていないの。自転車壊したのも含めて、ただ困らせたかっただけなんだって。
詳しくは、被告人質問で聞いてみましょう。

弁「先ほど、検察官が言っていた犯行については認めますね?」
被「……」
弁「被告人?」
被「だから、最初から私は認めてます」

今のは、裁判は争わないっていうお決まりの質問なんです、いわばお決まりみたいなものなので、どうか怒らないでください。どうか穏便に。

弁「最初の○○さんのロッカーから財布を盗っちゃった件だけど、どうしてこんなことしちゃったのかな?」
被「何度も言ってるんですけど、あのババァが」

バ、ババァ!?法廷で初めて聞いたわ。

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ババァっぽいTOP画を探してたら、こんなの見つけたので貼っておきますね。
ってか絶対この人、自分が今何の最中かわかってないって。あ、あと、冒頭の「何度も言ってるんですけど……」って部分は、これから質問の度に毎回言ってるんでカットします。

被「あのババァが、ロクに仕事もしないで、喋ってばっかいるから、ちょっと懲らしめてやろうと思ったんです」
弁「うん、まぁその……被害者が、あまり仕事をしないから、ちょっと困らせてやろうっていう気持ちだったのかな?」
被「今、そう言ったと思うんですけど

裁判長!30分後に言う懲役1年6月執行猶予4年の判決前倒しで言ってあげて。弁護士かわいそうだよ。正直、こういうしゃべり方の人、苦手だわ〜。

裁「弁護人は、回答が重複する質問を避けるように」
弁「はい」
裁「被告人は、被害者の方に対する言動に配慮をするように」
被「……(無視)」

すげぇな、この人。いったい、何にそんな怒ってんだよ。今は、あなたが怒られているターンだから。

弁「自転車を壊してしまった○○さんの件だけど、どうしてそんなことしちゃったんですか?」
被「私が20分かけて歩いて通勤しているのに、あのクソオヤジは歩いて5分のとこに住んでるくせに自転車を使ってるし、しかも遅刻をするので腹が立っていました」
弁「じゃあ、勤務態度をしっかり守らない○○さんに対して、ちゃんと時間を遵守させようという正義感から行ったことなのですね?」
被「はい、まぁそんなところです」

ぜってぇ違ぇって!!今の被告人の言葉からどうしてそう解釈する?ただ単に、歩いてるのに疲れて、自転車使ってる被害者、改めクソオヤジにイライラしてただけだって。まさか、正義感を弁護の軸にごり押しする気では……?
ちなみに省きましたけど、クソオヤジ発言については裁判長からちゃんと注意を受けたんでご安心を。

弁「では最後の○○さんのロッカーから財布を盗ったのはどうしてですか?」
被「おじいちゃんに早く仕事を辞めてもらいたくて」

お、おじいちゃん!?もっとほら、ジジィとかさ色々あるよ。

弁「早く辞めてもらいたいとは?」
被「体もあまりよくないし、職場は給料もそんな良くないから、早く仕事変えなよって言ってたんです。でも辞める気ないみたいだから、危ない職場ってことがわかれば、すぐに辞める気になってくれるかなと思いまして」

……。
危ない危ない、コンマ1秒でも同情するとこだった。それでも、盗んじゃダメだって。でも、明らかに前の二人とは心情が違うのが明らかだね。ババァ、クソオヤジと来て、おじいちゃんだからね。
弁護士は結局、最後の件も含めて仕事上の正義感からの犯行であることを強調。財布の中身は抜いていないし、自転車を壊した件も通勤も徒歩圏内だから実質的な損害はあまりないだろうだって。
ただねぇ、弁護士さん知ってるのかな?自転車って、通勤だけに使うものじゃないんですよ。

*1:起訴されたものについて、被告人が認めるか、否認するか、一部否認するかを聞くもの