20年以上罪を犯さなかった男が、再度犯罪に手を染めた理由とは!?

裁判No.24
事件:「器物損壊」 概要)自動販売機をちょこっと壊す
被告人:50代後半の男性
傍聴席:1人


裁判の中身は「続きを読む」からどうぞ。


気温の変動が激しい今日この頃。そんな天気に体調を左右されやすい営業マンの皆さん、ちょいと裁判所で小休止なんていかがですか?「普通」です。
今回もはりきって参りましょう。


ニュースとかで殺人事件の中継をしていて、カメラにピースをするような頭の緩めの人はこのブログにはいないとは思いますが、もしその現場が家の近所だったり、知ってるところだったら多少なりともテンションは上がるとは思います。
裁判を傍聴していると、そういう経験ももちろんあります。
裁判で初めて、家の近くでこんなこと起こってたんだと気付かされることもあるし、人定質問*1では被告人の現住所も述べたりするので、実はご近所さんで妙に親近感を覚えたり。
今回は、僕の実家のすぐ近くで起きた事件。ただ、家族も誰もこの事件のことを知りませんでした。

被告人は50代の男性。
被告人は、自動販売機にお金を入れたのに商品が出てこなかったことに腹を立て、火のついた紙を自動販売機の中に投げ入れ、中を溶解するなど7,000円相当の損壊行為を行ったというもの。

なんとなく気になったので、実家に帰る際に現場に行ったら……というか実家に帰るというのを口実にただ現場に行きたかったんで行ったんですけど、すでに被害を受けた自動販売機は修復済みのようでした。考えてみれば、事件起きてから裁判までって2か月以上あるしね。
まぁそれはともかくとして、この起訴状について被告人は罪状認否*2でこのように答えます。

被「私は決して紙を投げ入れてはいません。入れただけです

????
一瞬さぁ、行為の悪質性について争っていると思ったんだよ、殴ったんじゃなくて当たっただけなんです、みたいな。でも、この行為を考えてみると、投げ入れようが普通に入れようが悪質性は変わらなくない?そっとやさしく置きましたって主張なのかな?
でも、火器の取り扱い注意って、そっと置くからいいってものじゃないぞ
ただ、どうやら話を聞くと、意図的に投げ入れたんじゃないって主張だそうで。商品が出てこないので手を突っ込んだら、なんかプラスチックの板がつっかえているっぽかったので、火を使ってそのプラスチックを変形させれば取り出せるんじゃないかなと。
でも、単なる紙を燃やしたのを持ってるだけだから、どうなるかは結果は見えています。

被「熱っつ!!

こうやって、自販機内に火のついた紙が落ちちゃって、取ることもできなくなっちゃって7,000円分の損壊につながったと。
ちなみに、事件のとき近くの焼鳥屋で飲んでいた目撃者の証言なんかもあります。

目撃者「近くの焼鳥屋から、何の気なしに外を見ていたら、被告人が火のついたたいまつのようなものを持っているのを見た。そのうち煙が出てきたので、店員と一緒に出て行って消火活動を行った」

別にこの人はなんも悪くないんだけどさぁ、2009年に中央線沿線でたいまつ持って町を歩いている人間がいたらそれだけで事件だって。

そんな怪しい奴、煙が出ちゃった事後の前に対処できたらしてほしかったなぁ。
ってかさぁ、プラスチックの板は溶けるかもしれないけど、その近くにある飲み物も火にあぶられちゃうよね。ホットドリンクだったのかな。
まぁいいか。それでは、被告人質問に移りましょうか。

弁「被告人は昭和59年を最後に犯罪行為とは無縁の生活を送っていますね。刑務所を出てからは、どのような生活を送っていたのですか?」
被「建築現場の日雇いのバイトで生活していました」
弁「以前は、職場の同僚に対して暴行事件なども起こしていたそうですが、前刑出所後はそのようなことしていませんね」
被「はい」

この人、暴行やら覚せい剤所持やら多数の経歴を持ち、実に前科は6犯。しかし、弁護士が言った通り、昭和59年を機に警察のお世話になることはなくなって真面目に働いていたとか。
ちなみに、私「普通」は昭和59年生まれ私の人生は、被告人の犯罪からの立ち直り人生と同じ年月を歩んでいます。頑張れ、おじちゃん。
でも、まさかこんな犯罪で再度警察のやっかいになるとは思わなかったろうに。

弁「商品が出なかった時点ですぐに壊そうとしたのですか?」
被「まず、もう1度お金を入れました」
弁「いくら入れましたか?」
被「130円です」
弁「では、計260円ですね。被告人の全財産が5,012円という供述がありますから、260円はだいたい全財産の……5%。その5%を使ってしまったと」

ほっとけよ!いいだろ、全財産5,000円でもさぁ。
でもさぁ、最近の130円って額の自動販売機ってなんなのさ。また値上げしやがって。むしろペットボトルとか、容量小さくなってる気がするし。気のせいかな。

弁「被害金額は7,187円でしたけど、その賠償はどうしましたか」
被「全部はまだ払えていませんが、4,000円ほど払いました。手持ちがそれしかないもので」
弁「残りも当然弁償していきますね?」
被「もちろん、人様に迷惑をかけたのですから、できるだけ早く弁償していきます」

うん、頑張れ、おじちゃん。
求刑は罰金二十万円。反省の態度も示していますし、検察官もそんなに強く追及するようなこともありませんでした。
弁護士も犯行そのものに悪質性はなく、自販機の運営自体が困難なわけではないとした上で、

弁「被害額は7,187円とさほど高額といえるものでもありません。また、そのうち被告人は4,000円を還付しております。また、その4,000円というのも事件当時の被告人の所持金が5,000円足らずであったことを考えると、全財産の8割強を被害金に充てていることとなり、その反省の度合いも顕著です」

確率論者か、お前はさっきから
わかるよ、被告人は誠意をもって被害を回復させようとしていますって主張なのはわかるけど、どうも全財産5,000円を強調されるとバカにしているような感じになるんだよね。
そこまで言わなくても、反省してるのわかるから大丈夫だよ。
結局、判決は求刑通りの罰金刑なので、裁判後に即釈放。
今回、被告人は裁判を受けるような行為をしてしまったけど、前科6犯もあった人が、20年以上罪を犯さなく真面目に生きてきました。裁判だけ見てるとさぁ、繰り返して罪を犯す人を見ることはできるけど、更生した人って見る機会がないもんね。そういう意味では、今回の裁判は貴重だった気が。

*1:その裁判において起訴されている人物と、法廷にいる人物が同一人物かどうかを調べる作業。名前、生年月日、住所、本籍地、職業など。

*2:訴状に書かれていることについて、被告人が認めるか、否認するか、一部否認するかを確認する作業。