面白い裁判ここにあります(2)

裁判No.33
事件:公用文書等毀棄罪 概要)取調調書を損壊(たぶん)
    業務上過失傷害 概要)不明
被告人:50代後半の男性
傍聴席:3人


この裁判は連載の2話目です。1話目は↓から。
「第1話」
裁判の中身が気になる方は「続きを読む」からどうぞ。


もう9月になり、暑さもだいぶ和らいできて、来るべきシルバーウィークの裁判所巡り合宿の準備を粛々と進めております「普通」です。
今回もはりきって参りましょう。
え?なんでまた更新が遅れたのかって?残暑だよ、残暑


さて、前回の続き。
客観的視点に基づく質問のみ許されたのに、一発目で自分の記憶から証人を嘘つき呼ばわりして、裁判長から質問停止を命じられる被告人。テンポ、口調、どれをとっても文字だけでは伝わらない素晴らしいものでした。

裁「はいはい、わかりました。じゃあ客観的な質問であるならば許可します。自分の主張を行うような質問であれば、すぐに取り止めますので」
被「では証人にお尋ねいたします。あなたは先ほどの検察官さんによる尋問の中で、被告人、つまりは私がですね、最初に取り調べを受けたとき、証人は私が免許証を提示しなかったと言いましたが、


それは、嘘です!!そうですね?」
裁「はい、もう止めます
被「待って、ちょっと待って」
裁「だって、自己の主張は認めないって言ったでしょう」

裁判長の言うこと守れなかったんだから、普通だったらここで質問終了ですよ。裁判を舞台にしたコントじゃないんだから。
でも、実際に質問が継続されちゃうんだから、現実とは面白いもので。

裁「だからね、こういう場合だったら「あなたは、被告人の最初の取り調べの際、免許証の提示を受けましたか?」と聞けばいいんですよ

とアドバイスを与えてあげるのが、コントではなく現実の裁判。では、それを踏まえて被告人Take2!

被「そう、それです。え〜、あなた、つまりは証人ですね、証人は最初の取り調べのときに私から免許証の提示を受けましたよね?
裁「だから〜受けましたか?って聞くんだってば」
被「了解いたしました。では、免許証の提示を受けましたか?」
証「記憶しておりません」


被「はい、それは嘘です!私はしっかりと提示いたしました。では、次の質問です」
裁「これ、続けなきゃダメなんですか?」
被「もう少し待って下さい。ここからが大事なんですから」
裁「はい、じゃあどうぞ」
被「最初の取り調べの後、私は取調室を出て自分の車に向かいました。すると、車のカギが入ったバック、ちょうどこれです。これ、見覚えありますね証人……」
裁「あ〜証人は別に見なくていいですから」
被「……で、このバックを取りに部屋に戻ったら、あなたは他の取調べ官と何かを話しながら私のほうをにらめつけましたね!?
裁「それは、質問なんですか?この質問は何につながるんですか?」

全くだよ。睨んだか睨んでないかって中学生じゃないんだから。
「おいお前、何見てんだよ!?」「はぁ?見てねぇよ、バカ」的なノリか。

被「いえ、ですから私の無実をですね証明しようとですね……」
裁「う〜んと、だから……「先ほど証人は、被告人が無理やり取調室を飛び出したように証言したけど、証人からは何も制止を受けなかった」ということを証言したいのですか?」
被「はい、そうです」

え〜、そうだったのかよ。さすがに、今の会話の流れだけじゃそこまでは読めないよ。
すごいな読解力に定評のある裁判官。そして、もうちょい考えろよ被告人。もっと、端折(はしょ)ってさぁテンポよくいこうぜ。こんなんニコニコ動画に上げた日にゃ、
「長ぇ、カットしろ」「文句言うなら、勝手に飛ばせやボケ」「はいはい、自演乙」「飛ばさないで最後まで見てた俺勝ち組」
みたいな感じで荒れるぞ、あんたの動画。……勝手な妄想広げてみたけど、裁判をニコニコで生中継したら荒れるんだろうなヤル気のない弁護士の質問キタ―――(゜∀゜)―――的な感じかな。
そんなニコ厨の独り言。

被「はい、そういうわけで、あなたは私が取調室を出る際に私を静止させようとしませんでしたね?」
証「いえ、私は静止させようといたしました」
被「いえ、そんな事実はございません。全くの事実無根でございます。」
裁「はい、もうダメダメ。質問終わり。全然、客観的視点って意味がわかってないんだもん」
被「いえ、しかしですね、この証人の証言にはいくつもおかしな点がですね……」

ねぇよ。きっと、ねぇよ。
確かに、ちょっと証人ふてぶてしい態度とってるし、警察官としてなんかマズイ取調べとか行ったんだったら正直に認めるとは思えないよ。もしかしたら、おかしな点があるやもしれん。
でもね、まず裁判の様子から言って、あなたの方がおかしな点が多い。それに、どうやら交通事故だか交通違反らしいんだけど、これらの事件って誤認逮捕ってまずないでしょ。だから、警察で取調べを受けてる時点でほぼ有罪だと思うんだよ。
そこでさぁ、免許証出しただ出さないだ、部屋で暴れただ暴れてないだで争うのは、証人の記憶の曖昧さを突くものではあっても、根本的な無罪の証明にはならんでしょうに。こんなの僕だってわかるよと思ってたら、コントの片割れ裁判長がまたもや助け舟。

裁「だからね、もし主張があるなら読んであげるから紙に書いてきなさい

なんて心の優しい裁判長だ。素晴らしいなぁと思ってら、急に手に持っていた大きい紙(恐らくA3サイズ)を横にビローンと広げて、

裁「読んであげるから、こんな大きな紙じゃなくてA4サイズの紙にしてきなさい。手書きでもいいけど、ワープロで作ってくれた方が読みやすくはあります。手書きにするんだったら、こういう横の線、罫線がついているのが望ましいです。それと、横綴じにするんで、横書きにしてくるように

なんと細かいレポート指導。しかも、すでに被告人は裁判長にバカでかい紙で意見を申し上げていたとのこと。
一応、被告人は了承し、今日の裁判は無事に終了。すげぇ裁判に出会っちまったなと感慨深く法廷を後に。
この被告人は保釈金を払っているので、裁判が終わったら身柄を拘束されることなく普通に出口から出て家に帰ります。エレベータで被告人と一緒になることだってあります。被告人の後ろを歩いていて、なんかあとで絡まれたりしたら嫌だなぁと思っていたところ。
それまで、ほとんど存在感を示していなかった弁護士(女)が後ろから猛ダッシュしてきて、万引きGメンよろしく帰ろうとしていた被告人の首根っこを捕まえて、「ちょっとこっち来てください!」と法廷の前にある打合せ室という小部屋に入りドアをバタンと閉めました。
なんだなんだ、どうしたどうした、と中の様子が窺えないものかと思っていたところ、そんな努力をするまでもなく響く大きな声で、

弁「そんな、弁護士の私に一切相談しないで勝手に質問をしたいとか言い出すなんて信じられません!!」

と、かなりお怒りのご様子。

被「いえですねはですね、の無罪をですね」

と、被告人は一文の中で主語が切り替わるというテンパり度合いを見せましたが、しばらく弁護士さんのお説教は続きました。


裁判って面白いものを求めに行く場じゃないですよ。言われなくたってわかってますよ。
でも、こんな裁判を見せられて次も見に行きたいと思わないで何を見る?
というわけで、この人たちをしばらく追ってみました。続きは、また後日。