なぜ君は絶望と闘えたのか

風の吹くまま、気の向くまま
何を読むかは賽の目次第
裁判博徒の看板背負って
歩いてみせます読書の天地
題して


The Book Review


今回、紹介する作品は、
門田隆将、「なぜ君は絶望と闘えたのか」(新潮社 1,300円+税)

なぜ君は絶望と闘えたのか

なぜ君は絶望と闘えたのか


内容Amazonより):
判決、死刑―。最愛の妻子が殺害されたあの日から、九年。司法への義憤を抱え、時に死すら考えながら、長き日々を苦闘し続けた、一人の青年の軌跡。光市母子殺害事件を圧倒的な事実と秘話で綴る感動の記録。


著者Wikipediaより(途中加筆修正あり)):
2002年10月から『週刊新潮』に「裁判官がおかしい!」を連載、後にそれを大幅に加筆して、『裁判官が日本を滅ぼす』を新潮社から刊行。新潮社勤務中ながら講談社から『甲子園への遺言』を発表。『甲子園への遺言』は第16回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。
創価学会員ジャーナリストの柳原滋雄は門田の創価学会関連記事を捏造報道として現在も批判を展開している。2008年7月、光市母子殺害事件遺族の本村洋を描いた『なぜ君は絶望と闘えたのか――本村洋の3300日』(新潮社)を刊行、大宅壮一ノンフィクション賞候補にノミネートされた。


と、いうことでレビューは「続きを読む」からどうぞ。


さて、そんなわけで、なんか語り出したら自分でも話を止められなくなっちゃう「酔っぱらい」型書籍評論コーナー「The Book Review」でございます。
本当はね、前回振った賽の目が

文系法医学者のトンデモ事件簿 (アスキー新書 112)

文系法医学者のトンデモ事件簿 (アスキー新書 112)

これだったんですね。もちろんちゃんと読んだんだけど、あのねお恥ずかしながら一切内容が頭に残んなかったんですね。で、こんなんじゃレビューなんてできっこないということで、まぁ勝手に新しい題材をピックアップしたわけでございます。
そんなわけで、今回は「なぜ君は絶望と闘えたのか」という作品。
この作品ですが、先ほどの内容紹介にも書きましたが「光市母子殺害事件」の遺族の本村洋さんを描いた作品でございます。一応、皆様ご存じのこととは思いますが、この事件のWikipediaの記事に飛べるようにしておきましょうかね。


Wikipediaによる記事はこちらから→「光市母子殺害事件」


まずですね、率直に感想を言いますと、まずどんな方でも読んでいい本だと思います。文章も非常にきれいですし、読みやすいと思います。
僕自身、本を読んで初めて知ったことなんかもありましたし、そういう意味では非常に読んでよかったなと思います。

(本村さんのセリフ)「(省略)裁判が始まって遺影を持っていったら、荷物として預けさせられました。二人に法廷を見せてあげることもできない。法廷では、僕たち遺族には傍聴席さえ用意してもらえない。僕は、家族を守ってあげられなかっただけじゃなく、裁判になっても何もしてあげられないんです。僕は、それが悔しい……」(107ページ)

これね、知らなかったんだけど、まぁ別に直接この事件がきっかけというわけじゃないんだけど、この辺りを機にその傍聴席やらなんやと法改正したらしいね。
今は、普通に被害者や被害者遺族の方への傍聴席は用意されます。そりゃあそうだよね、マスコミの記者のための席があって、遺族の席がないなんてバカな話はないよね。
まぁ、これを始めてとして、僕がニュースをロクに見てなかったのかわからんけど、この事件をきっかけに変わったことって多いみたいね。その辺りの記述とか、すごいためになるし、丁寧だからわかりやすい。


ほかにも褒めポイントはあるんだけど、どうしても読んでて気になるっていうか、触れなきゃいけないポイントがあるから、まずそこから。
この事件の被害者遺族の本村さん、もう裁判が行われれば連日連夜彼の顔がテレビに出ていましたよね。で、冷静な語り口で主張すべき点は、きちんと主張してらっしゃったのでご記憶されてる方も多いかと。
その本村さんの主張として、本でも書かれているんだけど、人を殺した人間は死でもってその罪を償うべきという論(?)というか、被告人に対して死刑を強く望んでいましたよね。
今回の事件において、奥さんと1歳に満たない赤ちゃんが殺されてしまう被害者遺族として、死刑を強く望む。これ自体、何も間違った考えとも思わないし、この人に対し無暗に賛成・反対を唱える権利のある人はいないと思う。


ただ、この本において著者が著者自身の言葉で死刑を正義と読者に訴えている点、これに関しては正直疑問符をつけざるを得ない
もう1回言いますけど、僕自身今回の件で死刑判決が出たことに対し、なんの疑問も持っていないし、本村さんがメディアに出演する際に再三再四死刑を求めるという行為は間違っていないと思う
でも、第三者である著者が若干その正義というのを定義づけしている感があって、そのぉ……うまく言えないけど、その訴えは本村氏が言うから頷けるのであって、ほかの人に言われると、その定義づけは個人個人にやらせてよと思っちゃうんだよなぁ。
散々、死刑は当然だ口調で話を進めてきた割に、死刑判決が出たF(被告人)に面会を申し出るときは

自分は君の味方ではない。しかし、敵でもない。(238ページ)


って手紙で綴ってるんだよね。散々死刑口調で書いてたのに。「敵でもない」はないよな
そのぉ、この本における死刑というものの定義が、それが本村さんの意見なのか、著者の意見なのかがわかりくいんだよね。別に死刑の定義みたいなんを著者がやることを悪いと言うつもりはないけどさ、こういうノンフィクションの話を書く場合、ちゃんと立場ごとの意見っていうのをわかりやすくしてくれないと混同して訳わかんなくなっちゃうかな。




あともう1つ、疑問に思う部分があって、38ページから61ページまで、結構なページ数ですよね、を使ってですね、本村氏の半生、奥さんとの出会いや子どもができるまでを描いているんだけど、ここが必要だったか?っていう部分がずっと気になってて。もちろん、本村さんを追っかけるうえでは、必要な事項なんだけれども、


今回結果として世論を巻き込む形となってまで死刑判決を求めたのはそもそもの事件の残虐性や本村氏の懸命なる姿勢等によってであって、実際に彼が過去にどんな経験をしてだとか、奥さんとは仲睦ましくてみたいな記述はね、どうも読者を事件とは関係ない部分で同情に持っていっているような気がして、正直あんま好きじゃない。


まぁ微妙にね、本村氏が学生時代に入院生活を送っていた際に感じた「死」と「生」いうもの、決して裕福とはいえない家庭環境であったなどの点は、この事件に必ずしもリンクしないわけではないんだけど、つなげかたが下手なのか、読み手が下手なのか事件とそういったエピソードとの関連性が薄いと感じるんだなぁ。
う〜ん、これも別に悪いこと書いているわけじゃないと思うんだけどねぇ、難しいねぇ……。




ちょっと論点を変えましょう。もう死刑云々については止めましょう。
今回ね、家族を失った若い男性が10年近く法廷で闘うわけですけども、いろいろな経験をなされているわけですよ。その話の部分だけでも、この本を読む価値はあると言ってもいいかなと思ってるんだけど。
言い方悪いかもしれないですけど、周りの人などから名言なんかがバンバン出るわけですよ。で、ここがこの本において、最高に評価したいポイントであって最高に非難したいポイントなんですけど、


僕ね、人から勧められて本屋でこの本を見つけて買ったんですけど、僕の癖でもあるんですけどね、すぐ裏表紙を見るんですよ。そしたら、文庫本とかだと大まかなあらすじが載ってたりするんで、そこで面白そうかなと判断するんですね。
そしたらですよ、裏表紙にかかってる帯の部分に書いてある、本文から抜粋されたある文章があるんですけども、そこを読んで書店の中で僕本当に泣く一歩手前までいったんですよ。うわっ、すごくいい言葉だなと。
それで、心をがっちし掴まれて即購入に至ったわけなんですが、実際文章を読み進めていくなかで、そのワードにぶち当たったときに、帯で見たときほどの衝撃を得られなくなっちゃったんですよ。
多分ね、本を読んでいくなかでそこに当たったら号泣でしたよ恐らく。それが、そのワードを知っちゃったもんだから、変にいつ来るんだ?いつ来るんだ?って期待しちゃったんだよねぇ。すっげぇ残念。結局、その帯文を読んで本を購入したからさ、本の体裁としては間違ってないんだけどさぁ……。


で、ここでは一応ネタバレみたいなのはするつもりなかったんだけど、本を読まない人に対して、この名言達を埋もれされるのは残念なので、以下数行、青文字で本文を抜粋しますので、見たくない人は目に手を当てて、「あーあー」と声に出しながら下にスクロールしてください。

本村君。それは法律がおかしいんだ。そんな法律は変えなければいけない」(107ページ)


司法に絶望しました。控訴、上告は望みません。早く被告を社会に出して、私の手の届くとろこに置いて欲しい。私がこの手で殺します」(132ページ)


そして、さっき言ったとこ
(本村氏が会社に辞表を提出し、それに対し上司)
この職場で働くのが嫌なのであれば、辞めてもいい。君は特別な経験をした。社会に対して訴えたいこともあるだろう。でも、君は社会人として発言していってくれ。労働も納税もしない人間が社会に訴えても、それはただの負け犬の遠吠えだ。君は社会人たりなさい」(92ページ)


こんな上司かっこいいなぁ……。最後の一文に、社会人の私、完全にノックアウトですわ。
とまぁ、いろいろと書きましたけど、死刑というものに対し、賛成しろ反対しろというつもりはありませんが、ちょっと考える時間をもてるいいきっかけになると思います。無責任な言い方かもしれませんが、家族を失った一人の男性がそれにどう向き合い、どう闘ってきたのかという部分では、非常に考えさせられる部分が大きいものだと思いますので、あの事件を知ってる人、そうでない人にも




お薦めです!
決して悪い本だとは思いませんので、書店で見つけたらちょっと気にしてみてくださいな。
というわけで次回の賽の目


1枠.森達也「死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う」

死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う

死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う


2枠.十二人の怒れる男」(DVD)


3枠.かなざわいっせい「すごい裁判官・検察官ベスト30―東京地裁で3000回傍聴している私が選ぶ 弁護士もイケてます」


4枠.かなざわいっせい「すごい裁判官・検察官ベスト30―東京地裁で3000回傍聴している私が選ぶ 弁護士もイケてます」


5枠.今井亮一「裁判中毒―傍聴歴25年の驚愕秘録」

裁判中毒―傍聴歴25年の驚愕秘録 (角川oneテーマ21)

裁判中毒―傍聴歴25年の驚愕秘録 (角川oneテーマ21)


自己推薦枠の6枠.「誰も守ってくれない」(DVD)

ちょっとね、言いたいことあるわけよ。


と今回からはDVDも含めたラインナップとなっております。
では、久々の




Let’sサイコロTime!!


ドキドキ
ドキドキ



3枠〜「すごい裁判官・検察官ベスト30―東京地裁で3000回傍聴している私が選ぶ 弁護士もイケてます」
……。
この本を読んだ後に、読みたくないんすけど……。まぁいいや、イヤイヤだけど、この本を読んでみま〜す。
しばらく、このコーナーが更新されないなぁと思ったら、怒りのために本を粉々にしたと思ってくださ〜い。