「急にボールが来たので」「急に尻が来たので」

裁判No.55
事件:「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反」 概要)電車の中の痴漢
被告人:50代後半の男性
傍聴席:5人


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犯罪者にはさ、ときたま物凄く同情できちゃう人がいるんだよね。
殺人といったら言わずもがなとんでもない犯罪行為ですけれども、ドラマとかでもさぁ犯人に同情してしまうパターンってあるじゃん。同情って言葉というか、


こんな(善良そうな)人が罪を犯してしまうなんて、どんだけ悲惨な人生を...
っていう驚き、憐みという表現のほうが適切かもしれない。
この驚きが、ある意味いい方向に傾いているのなら同情という心情になるんだけど、初めてこの驚きがヘンテコな方向を向いていて心底困惑したという稀有な体験の話。


さぁそんな訳でして、卒業しました大学はセンター試験で入りました「普通」です。受検生は明日も頑張れよ!っていうかセンター受けてる人はこんなブログ読んでないで勉強してなきゃダメよ。
傍聴記は久々ですが、はりきって参りましょう。


さて、今回の事件ですが、被告人は50代後半の男性です。もう定年間近です。罪状は痴漢です。
そこだけ聞くと、皆さんこう思うことでしょうよ、


そんな歳にまでなって、何してやがんだこのエロじじぃ!!
まぁそんなとこじゃないですか。僕だってそう思いますよ。
では、実際どんなことをしやがったのか、罪状を確認してみましょう。

被告人は仕事から帰る途中の満員電車の中で、目の前に立っていた女性(26歳)のお尻を触ったり揉んだりした疑い
被告人は犯行を認めています。

ここまでだと普通だけど、ここからが、この裁判面白かった。
まず常習性の非常に高いと言われる痴漢犯罪において、この被告人は50代後半にして初犯。痴漢犯罪どころか、交通違反も含め警察のお世話になったことが一切ないとか。
そして、被告人は非常に仕事での信頼度も高く、痴漢って言ったら普通はクビになりそうなものなのに会社に帰ってくるポジションが用意されている。そして調書の限りでは、社員は心底驚いて「あの人がそんなことを?」などと言ってる様子。
また、奥さんは完全にパニック状態。やはり家でも全くの優等生である被告人。
奥様との性行為自体はここ7〜8年無いとのことですが、まぁよくわかりませんがそんなもんでしょうよ。
家でもよき旦那であると奥さんは思っていたため、自分が話を聞いてやれなかったのではないか、私が旦那に知らぬ間にストレスを与えてしまっていたのではないかと証人尋問では涙でぐちゃぐちゃになりながら答えてくれました。


証人尋問を結果だけで飛ばすなんて、このブログじゃ滅多にないことですけど、それくらい被告人に時間をかけたいってことなんです。
人を見た目で判断しちゃダメなんだけどさ、本当に被告人が痴漢をやったかって見た目では思えなくて、仮釈金払ってるから家からスーツで来ててさ、いかにも利発さを思わせるメガネをかけていて、背筋もピーンとなってるから最初に法廷に入ってきたとき証人として来た被告人のお父さんかなって思ったくらいなのよ。裁判始まるまでは、被告人がどんな人かってわからないからさ。
じゃあ、そんな被告人がどうして痴漢なんぞやってしまったのか、ご自分の口から説明していただきましょう、どうぞ!

弁「今回、どうしてこのようなことを行ってしまったのですか?」
被「はい…まず正直仕事がだいぶ立て込んでて疲れで頭がぼぅっとしていたということはあるのですが…」

なんだよ、仕事のストレスを言い訳パターンかよ。俺、その言い訳嫌いなんだよねぇとか思ってたら、全然違いました。

被「…疲れで頭がぼぅっとしていたということはあるのですが…気がついたら私の手に、今思えば被害者の女性のですねお尻の部分が当たっていたんですね」
弁「当たっていた?触ったではなく、当たっていたですね?」
被「はい、そうです。ただ、頭もぼんやりしていたもので、この感触はなんだろうと思って、多少色々と触ってしまったんですね

なに、この好奇心旺盛オジサン!なんだろうと思ったら、探究せずにはいられんのか。その積極性は箱の中身はなんだろな?で発揮してください。
ガキの頃、「スライムがあるよ、触ってみ」って言われて、友達が吐いた痰を知らずにこねくり回してた誰かの黒歴史の扉が空いた音がしたぞ。...気のせいか。

弁「それが今回の被害者女性の臀部だった訳ですけど、ずっと気付かず触り続けていたのですか?」
被「いえ、誰とはわかりませんでしたけど、臀部であることはわかりました」
弁「女性であることは?」
被「顔が見えた訳ではありませんので分かりませんでしたが、触ってる感触でそうかもしれないと思いました」

正直なのは結構ですけど、真面目に話せば話すほどその行動とのギャップが大きくなっていく。もうこうなったら、誰にも止めることなどできません。

弁「女性かもしれないと思ったのに、どうして止めなかったんですか?」
被「今、思えば全く理解できないのですが


これが痴漢行為か(恐らく腕を組んでふむふむ)、などと考えながら触っていた気がします」
弁「被告人には痴漢行為に対しての願望、欲求などはあるのですか?
被「ありません」
弁「臀部を触っているとき、性的興奮が高まるなどはありましたか?
被「ありません。性的興奮が目的でなく、ただ触るという行為自体が目的となっていた気がするので…」

お前、柳沢教授か!

天才柳沢教授の生活(1) (講談社漫画文庫)

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もしくは登山家みてぇな感じだな。そこに山があるから登るみたいな。そこに尻があるから触る的な感じだな。
冗談で言ってるとは言え、被害者女性はたまったもんじゃないですよ。性的な目的じゃないとは言われても、現にお尻触られてる訳ですから。僕の女友人もこの話したら、痴漢ってのはどんなに女性が恐いと思ってるのか分かってないって怒ってましたよ。


でも、この被告人憎めないんだよ。
まぁここじゃ書かなかったけど、当たり前ながらちゃんと裁判上でも謝罪の言葉は明確に示しているし、言ってることはアホ臭いけど一貫してるし嘘はついていないってことなんだと思うし。
正直に喋ってるのは偉いと思うさ。大した罪になりゃしないんだけど、堂々として罪を受け入れる覚悟もあるんだろうさ。
でも、そんなアホな証言聞かされて、奥さんの泣き方がマジで尋常じゃなかったことだけ付け加えておこう。