この程度のエロは罪に値しない

傍聴No.73
事件:わいせつ図画販売目的所持 概要)無修正エロDVDを販売
被告人:40代前半の男性
傍聴席:1人


裁判の中身が気になる方は「続きを読む」からどうぞ。


漫画に古くからある手で噛ませ犬というキャラがいるじゃないですか。
古くでいえばドラゴンボールヤムチャに始まり、後のベジータまで。後々の主人公なりなんなりの強さを際立たせるため、いったんサブキャラにザコいところを演じてもらって、それらをひっくり返して主人公スゲーの展開にする。
刑事さんはよくその槍玉にあがりますよね。わがもの面で適当な推理をかまし、主人公に「それはどうかな」とか言われて、だんだん恥ずかしい感じになってくるみたいな。「金田一少年の事件簿」第一巻に出てきた剣持のオッサンなんてのは愚の骨頂とも呼べる登場シーンでして、超テンプレ通りの噛ませっぷりは今でも私の脳裏に焼き付いております。

まぁ裁判は誰が主人公とかないですけど、弁護士か検察官がポカすると相手さんが強キャラに見えることもあるのです。


関西来てから一発目の記事ですけど、まぁ特に変わりもなくいつも通りにやっていきましょう。毎度毎度おおきにやでぇ「普通」でございます。
今回もはりきって参りましょう。

被告人は40代の男性。
被告人は自ら経営するわいせつDVD販売店にて、モザイク処理を施していないわいせつDVDを127枚販売目的で所持していた疑い

いつも思うんだけど、この犯罪ってどうやって発覚しちゃうのかな。店内に「違法!無修正コーナー!!」とかやってたらそりゃバレるんだろうけど、そんなことも考えにくいし。
今回の場合、昨年の4月末に取り扱いを始めて、同年6月頭には発覚してタイーホという流れ。わずか1月半足らずで取り扱いが噂となって警察の耳に届いたのでしょうか。
まぁその辺りは裁判と関係ないのでいいんですが、この罪状の場合だいたいが売上金がヤクザさんの資金になったり、扱い商品が児童ポルノ法違反に抵触する場合もあるため捜査は細かくしている印象があります。今回はDVD127枚の容疑ですけど、過去に数千枚の罪状というのも傍聴しており、それらの捜査報告書の厚さはもはや凶器と呼べるレベルのものでした。






じゃあ被告人質問

弁「今回押収されたわいせつDVDはどこから入手したものですか」
被「ビル管理の方の知り合いの方です
弁「その人は暴力団と繋がりがあったそうですが、それはご存知でしたか?」
被「場所も場所でしたし(歌舞伎町)、店を出す時も含め、そういった職業の方とは多少は面識もありましたので、もしかしたらと思いました」
弁「扱いを断ることはできなかったのですか?」
被「強く言われたという訳でもありませんが、ビル管理の方のお知り合いですから遠回しに断れない雰囲気はありました」
弁「こういったDVDを商品として扱うようになって、売上が伸びたなどはありましたか?
被「いえ、特段伸びたなどということはありません

この被告人、見るからに普通のオッサンでさ、どっか行っちまった兄貴の莫大な借金を返すためにもともと就いてた仕事辞めたりなんやかんやしているうちに、こういう店を開く経緯になったとかで、個人としては直接暴力団の関わりもないみたい。もちろん違法商品を扱ったことは悪いんだけど、根っからの悪人とは思えない感じ。
そんなのほほんとした雰囲気に腹が立ったのかな、検察官は妙に語気が強め

検「あなたね、違法な商品とわかっていたんだったら、例え建物の関係があろうが、断固として断るべきなんじゃなかったんですか?
被「...はい、今ではそうだったと反省しています」
検「そんな危ない人間関係の人が管理しているビルだったら、早急に別の場所を探すなり対処はとれたんじゃないでしょうか?その辺りの危機意識も薄かったんじゃないですか?」
被「はい、その辺りも甘かったと思っています…」


いや、もちろん悪いことしてんだし、そのほかの可能性を探らなきゃいかんかったんだろうけど、この人の借金生活の話を聞いてそこまで怒らなくてもいいんじゃんとも思う。
たまに、語気荒くまくし立てることでドヤッってなる検察官がいるんだけど、まさにこの人ね。

検「あなた、さっき店の売り上げが伸びていないとか言っていましたけど私調べました。その年の4月のお店の売上が約90万円でしたね、それでいて5月の売上が約120万円と出ています。これを伸びていると言わないでなんというんですか!?」
被「...!!」
検「(ドヤッ)

満面のドヤ顔いただきました。ドヤ顔界の王貞治三遊亭好楽もビックリの100ドヤ顔です。

心底満足したように席につく検察官。


その後の求刑においても、その売上30万円upを妙に強調してくる検察官。よっぽど気に入ったのでしょう。求刑は懲役一年。まぁこの犯罪ではいくら検察が意気込んでもこんなものです。
この裁判は検察官劇場で終わるのかと思いきや、次の弁護士からの最終弁論(弁護士が被告人の汲むべき事情を最後に裁判官にアピール)で様相が様変わりします。

弁「(いろいろ長い話があって)さて、検察官が度々おっしゃっているわいせつDVDを取り扱って売上が大幅に伸びているという点については多少修正させていただきます。ただ、もちろん不当な商品で売上を残した部分もあり、それ自体を否定するものではありません。
まず第一に被告人自らが売上が伸びていないと法廷で証言した点。それと、
90万円の売上が5月に120万円に伸びたという点は、5月は元来GWもあり客足が伸びる時期ということです。その証拠に昨年の5月を見ても売上は約120万円であることからも、わいせつDVDを仕入れた本年の5月だけ売上が伸びたという証拠になり得ないのです。」

おーパチパチパチ。これはなかなか面白い展開。
もちろん不正な行為ですよというのを認めつつ、安直に罪を大きく見せるんじゃねぇよという弁護士の意地の一撃が入りました。この論破は散々ドヤ顔を披露してきた検察官にとっては恥ずかしい。弁護士の力量アピールのための噛ませとなってしまいました。ってか、これくらいの小さめな罪で弁護士の手腕が発揮されることってあんまないから新鮮な気分。
そんなレベルが高いとは言えませんが、なかなかの論理のぶつかり合いを見せられて結構満足。さて裁判も終わりかと思いきや、その展開を最後にまたひっくり返した人がいました。



裁「最後に検察官ちょっといいですか?」
検「はい?」


裁「この押収した商品の37番なんですけどね、あんまわいせつに見せないなぁ。
今どきね陰毛が見えるだけなら、本だっていくらでもありますよ。そこのわいせつ性証明できなければ、1枚は該当とみなしませんので」

まぁ127枚が126枚になったとこで量刑は変わらんのだけど、ちゃんと裁判長も仕事してんのね。
まぁエロ本好きな裁判長が、俺のがもっとエロいの知ってんぞというアピールにも聞こえなくもないのですが。