藁(ワラ)にもすがる女

裁判No.3
事件:「窃盗」 概要)下着ドロ
被告人:50代前半の男性
傍聴席:5人


裁判の中身が気になる方は「続きを読む」よりどうぞ。


どうも皆さん、おはようございます、こんにちは、こんばんは「普通」です。
今回もはりきって参りましょう。


裁判は人間ドラマだ。」
裁判傍聴をしている方のブログなりなんなりを拝見しておりますと、こういった表現はよく使われます。
だいたい意味はわかりますよね?
人が罪を犯す、それまでの経緯、心情、被害者、社会的注目度、これらを総合的に見ると、まるでドラマのようだという表現は確かにうなずけます。
まぁ当事者にとっては、そんな表現されたくないでしょうけど。


さて、その人間ドラマですが、必ずしも法廷で起きるとは限りません。
僕が学生のときに東京地裁へ行くと、必ずと言っていいほど正門の前のところに一人で座って拡声器を使って、何か訴えかけている人がいました。
その人じゃなくても、丸ノ内線の階段を上がると、署名を集めている集団に捕まることもざら。
裁判所の敷地外でも、彼らなりのドラマがあるのでしょう。


東京地裁の法廷に行くのに、普通の人はエレベーターを使います。
エレベーターの中で、推測するに保釈中の男とその妻の会話というのを聞いたことがあります。
僕のことを完全シカトで、裁判に向かう旦那を心配しつつも気丈に振る舞う妻。
これは、エレベーターの中で起きたドラマです。


このように、法廷外でのドラマ縛りで話を進めているということは、今日の話も法廷外での話なわけで。
これは、裁判所にもよりけりなんですけど、法廷の近くに「待合室」という小部屋が用意されている裁判所があります。
裁判って一つ一つの間が空いている場合もありますし、あと、意外と普通に話をするスペースって裁判所の中にはないんですよね。
まぁ、話をしにくるところではないですけど。
法廷内は基本的に私語厳禁ですしね。


裁判が連続していなければ、法廷のカギが空けられるのは開始時刻の5分から10分前。
裁判にも普通に昼休みが存在しますから、だいたい12時から1時の時間帯というのは食堂に行くか、待合室でぼけ〜っとしてるしかないんですね。
この待合室って、僕のように時間を潰す人もいれば、私語が可能なことをいいことに大声で電話している邪魔くさ〜い人もいれば、弁護士さんとかが証人とかと打ち合わせをしている場合もあります。


この日、僕は午後一番に行われる、窃盗の判決を見るために待合室で小休止。
ただこの裁判、審理を傍聴していないので窃盗という罪名以外は何も知りません
判決だけ見ることなんてあるの?と聞かれることもありますが、判例に多く触れたいため、ほんの10分程度で終わる判決のみ傍聴するというのは僕の中では珍しくはないんです。
すると、僕しかいないこの待合室に1組の男女が入ってきました。
2人とも、スーツにビシっと身を固め、そのなりふりからも裁判関係者を思わせます。
(ここからは、待合室で起きたことなんで、メモはとっていませんが、記憶を辿って再現します。)

女「では、手順をおさらいさせていただきますと……」

男「まずは、裁判官に再開請求を行い、賠償金の支払いがなされたという郵便通知書と領収書を証拠として裁判所に提出する」

女「そうですよね。大丈夫です、わかります」

男「まぁ、そんな緊張しなくても流れに乗ってしまえばね、まぁなんとかなるから」

女「ありがとうございます。ホントなにからなにまで

男「誰もが通る道だから、頑張って。法廷で話す姿なんか見てても随分と堂々としてきたじゃないか」


会話を聞いていると、女性は弁護士さんで、男性は弁護士さんかまたそれ同等に女性に対して意見を言える立場の人間だということがわかります
そして、女性はこれから判決を迎える裁判を控えているようなので、もしかしたら僕が見ようとしている裁判の弁護士なのかなとかの想像ができます。
女性は20代後半くらいですかね、もうなんか見るからに新米弁護士ってのがわかるんですよ。
男性は50代くらいの男性で、僕の勝手な想像では、その女性を一から育ててきたのでしょうか、男性のその女性を見る目は、お父さんそのもの。


しばらく、こういった相談&アドバイスが続いていたんですが、急に男は「じゃあ、私はそろそろ」とか言って、どっか行っちゃったんですよ。
あれ?せめて法廷で見てあげるとかしないのかなとか思っていたのですが、女性は特に気にもせず何か書類をじっと見続けています。
もう私は、一人前の弁護士よ、と。
いつまでも新米じゃないんだから、ずっと見ていなくても大丈夫だからとでも言わんばかりに、さっきまでいた男性のことを忘れたかのように集中している女性。


一方で男性はどのような気持ちで、待合室を出たのでしょう。
自分がいつまでも傍にいたら、成長するものもしないしなとか思いつつも、実はその成長を陰でずっと見ていたいとか思っちゃったりしたり……妄想は膨らむばかり。
う〜ん、これはなんとしてもこの弁護士さんの頑張りを見なければと、この弁護士さんが待合室を出て法廷に入ると僕もそれにつられて同じ法廷へ。
するとなんと、法廷内にはすでにさっきの男性が座っていたんですよ。




被告人席に




理解できます?
この男、仮釈されていた、元弁護士の下着泥棒だったんです。


………………。
え〜っと、整理させて下さいね、どこから突っ込めばいいのかな?
弁護士って職業の人が下着ドロをやろうがやるまいが、それは個人の自由ではないけど自由なんで勝手にすればいいですよ。
でもさぁ、どんな気持ちで弁護指導とかしちゃってんの?
お前(被告人)さぁ、自分の立場ホントにわかってるの?


それもそうだし、お前(女弁護士)もさぁ、他に頼るやつとかいないわけ?
それとも、コイツがしゃしゃり出てきたのかな?
マジうっとおしいとか思わないのかな?
それに女性の敵、下着泥棒ですよ、どんな神経してんだ二人とも、いったい。


裁判では、さっき言ってた賠償金の支払いがなされたという領収書が証拠として裁判所が認定して、結審(証拠などのやり取りを終えること)して、被告人による最終陳述があったんですね。
そこで、この元弁護士、現下着ドロの被告人は「本当にたくさんの方に迷惑をかけてしまい、大変申し訳なく思っています」って、もっともっぽいことを言ってたんですね。
でも、もはやこの人の裁判での出来事は何一つ信用していなくて、


この藁をつかんだつもりが、地雷を踏んじゃった女弁護士が「なにからなにまで」この被告人を頼っていたということは、被告人が自分が有利に裁判長にとってもらえるような裁判の進行を女弁護士にさせていた可能性が大なわけ。
つまりは、


すべて、反省の言葉も含めて計算なんでしょ!?って僕としては思っちゃうんですよ。


裁判ナメてんじゃないの
被告人には、懲役1年10月、執行猶予4年の刑が言い渡されてました。
初犯の窃盗事件なんて、執行猶予がつくのがごくごく当たり前なんでなんの驚きもしませんでしたけど、それでもこの犯行で執行猶予4年というのはちょっと厳しいかな、と。
そこは、裁判長が僕の気持を代弁してくれたのかなと意味フな感情を持ったりもしました。