「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」

風の吹くまま、気の向くまま
何を読むかは賽の目次第
裁判博徒の看板背負って
歩いてみせます読書の天地
題して


The Book Review


今回、紹介する作品は、
北尾トロ裁判長!ここは懲役4年でどうすか」(文藝春秋 税込690円)

裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫)

裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫)

内容Amazonより):
ワイドショーも小説もぶっとぶほどリアルで面白いのがナマの裁判だ。しかもタダで誰でも傍聴できる。殺人、DV、詐欺、強姦…。突っ込みどころ満載の弁明や、外見からは想像できない性癖、傍聴席の女子高生にハッスルする裁判官。「こいつ、絶対やってるよ!」と心の中で叫びつつ足繁く通った傑作裁判傍聴記。


著者Amazonより):
1958年、福岡県生まれ。オンライン古本屋「杉並北尾堂」の店主であり、ライターとしても様々な分野で活躍。型にはまらない執筆出版活動を展開している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


と、いうことでレビューは「続きを読む」からどうぞ。


というわけで、自分の首をふざけ半分で絞めてたら思いのほか絞まっちゃった、こと究極のネタバレ小説「クビシメロマンチスト」型

クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識 (講談社ノベルス)

クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識 (講談社ノベルス)

書籍評論コーナー「The Book Review」のコーナーでございます。
今回紹介する作品は、「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」という作品。
この本、恐らく裁判関連書籍の中では一番売れていると思われ、50万部突破とかいう話もあって、書店で見たことある人も多いのではないでしょうか。また、書店での裁判員制度コーナーの設立によって、ここ最近ではまた露出が増えてきている本ではあります。


では、内容読んだ感想に移っていくんですけど、……正直難しい。
さっき、ふざけ半分で自分の首を絞めてたら思いのほか絞まっちゃったとか書いたけど、まさにその通りで、この本は学生時代に読んでいて僕のスタンスから言っちゃうと、正直否定派なんですよ。だから、面白くないのになぁとわかってんのに再度読んだら、やっぱり面白くなかったっていう自爆とはまさにこのことで。
でも、難しいと書いたのは、この本売れてるんです。発行から月日が経っているとはいえ、50万部の売り上げなんてものは、超がつくヒットですから。そしてもちろんこれだけ売れてるってことは、肯定派のレビューも多い。ただ、否定派の意見を示している人も結構いる。
これ、どういうことかと言うと、裁判ってものに対するスタンスの違いで肯定派と否定派に分かれてるのね。裁判を傍聴したことない方が多数でしょうから、その人自身の倫理感のスタンスの違いとも言えるんですけども。具体的なポイントは後でまた挙げていきます。
まずは、そういったスタンスとは関係なく評価できるポイントから申し上げます。


まず、扱っている裁判が多い
裁判傍聴本の一つの役割として、裁判を知らない人に向け実例を多く挙げるというのはとても大事。その点では、僕みたいに1つの裁判をただダラダラと書いているわけではなくスピーディーに、また時には長く書いて読者を事件そのものに引き込ませる。この人のポンポン進む文章の流れというのは、僕好きですね。ただ時にはスピードが速すぎて、いつの間に別な話に切り替わったの?って気付かないこともあった。これは僕がただ漫然と読んでいたからかもしれませんが。
裁判の描写に関しては両極端な意見を持っていて、長きにわたって傍聴記を書いている裁判に関しての描写は細部にまでわたっていて、法廷での発言などリアルに表現できていて、これは素晴らしいと思う。
ただ一方で、そんなに行数を割いていない傍聴記に関しては、この人自身の文章が多過ぎて、以前

男はなぜパンツ一丁で郵便局に押し入ったのか トンデモ裁判傍聴レポート

男はなぜパンツ一丁で郵便局に押し入ったのか トンデモ裁判傍聴レポート

この本を紹介したときにも言ったんだけど、これは作者自身の言葉を極力排除することによって、客観的に裁判そのものを伝えようという気が感じとれたのね。でも作者の文章が多くなっちゃうと、それは悪い意味でマスコミ的な、どうしても作者が伝えたい裁判像でしかなくなっちゃうと思うんだよ。
だから、ただ文章で「証人の証言が甘すぎる」とだけ書かれても、じゃああなたはどの証言に甘さを感じたの?ってなるじゃん。もしかしたら、その証言をほかの人が聞いたら甘さを感じないかもしれないのに、作者が実際の言葉を排除し「甘い」と表現したら読者はあぁ甘いんだなって感想しか抱けないよね。それは不満。


さて、さてさて。ここからが評価が分かれるポイントに入っていきます。
そもそも裁判の傍聴って、なんでそんなことするの?って言われることも多いんです。犯罪被害者の神経を逆撫でしてるんじゃないか、罪を犯した人を傍から見てせせら笑ってるんじゃないかとかね。
少なくとも僕は、そういった観点から裁判を見てるわけじゃないし、被告人がどのような経緯で罪を犯してしまったのかという動機、それに対する被害者等の心情を知るというのは、当人にとっては逆撫でかもしれませんけど、僕にとっては生きていく上での勉強なんです。
あとよく言う人が多いのは、傍聴は国民に認められた権利ってこと。もちろんそうなんだけど、この著者はその権利なんだからいいでしょみたいな表現がいたるところに出てるんですよ。それが僕にとっては、不謹慎なんじゃないかなと。で、そのポイントに目をつぶれる人は、この作品に高評価を与えています。
たくさんあるんですけど、厳選して挙げていきます。

(初めての裁判傍聴をした日のあとがき)この日、もっとも衝撃的だったのは、被告の手に手錠がはめられていたこと。もし無実だった場合、こんな姿を傍聴席にさらされる被告の屈辱は相当だと思う。(19ページ)

これ一見、まっとうなこと言ってますよね。でも、こんなこと言ってる人が数ページ前では、

待つこと数分、刑務官2名に付き添われて被告が入場。きっちり手錠をはめられている。いいね、手錠。リアルだ。(12ページ)

手錠はめられている人に、いいねだと!?どんな神経してんだ!?「もし無実だった場合、こんな姿を傍聴席にさらされる被告の屈辱は……」それ、あなたに言ってやりたいよ

(無罪主張をする被告人の傍聴記)もっと悪いのは被告である。検察が話をしている間、居眠りしていたのだ。これだけでもヤル気あんのかと突っ込みたくなるのに、顔がなあ。どう見ても無罪に見えんのだ。顔が有罪。いやそれは言い過ぎとしても……(43ページ)

言い過ぎだろ、どう考えても。顔が有罪。これは、談志が、社会的権力のある人に言ったから共感できるし笑えるの。

大笑点〈vol.2〉顔が偽証罪の巻

大笑点〈vol.2〉顔が偽証罪の巻

今まで興味津々ながら「これだ!」という事件に遭遇しなかったジャンルがある。レイプと外国人裁判である。両方とも数はあるのだが、質がいま一つ。(263ページ)

残念なのは、どうしても誘拐話がメインで、レイプが添え物になっちゃってることだ。こっちはレイプの詳細を聞きにきているんだから、……(266ページ)

この人、結局は裁判の何に興味があるのかってのが全くわからなくて、単なる興味本位で裁判傍聴しているってのがありありと出ちゃっているのね。さっきも言ったけど、権利を盾にしてるって印象。レイプもののAVを見ようが、興味本位で裁判傍聴をするのはもちろん勝手だよ。だけど、それがこういう風にメディアに露出しているというのは関係者に神経の逆撫でと言われても全く反論できないと思うんだな。

  • 入手ルートはテレクラ売春で知り合ったヤクザだ。セックスして1万5千円もらうところを1万にするかわりに、シャブをもらっては打っていたという。ちっともイイ女じゃないから、相手の男はラリった女相手のセックスがおもしろかったか、シャブをさばくルートとして利用しただけだろう。(117ページ)
  • この妻(証言に立った被告人の妻)には色気のカケラも感じられないから、ズリネタは何だったんだろう。(156ページ)

もう、この辺りは全く理解できない。被告人は罪を犯したことは非難されるべきではあるよ。まぁ僕だって、証言とかで揚げ足はとるけど、容姿についてまで非難してどうすんの。こんなの、仲間内の会話だけで勝手にやっててください。


あ、そうそう忘れてた。最近、告知していた、なんでこの本を取り上げたかったのかっていう問題
まぁこれ、僕の勝手な感情で申し訳ないんですけど、前回の傍聴記で、僕としては珍しく被告人の犯行に対して非常に不快感を感じちゃって、3000万強の被害額とその犯行対応から考えて、どう考えても懲役二年六月は軽過ぎなんじゃないの?って思ってたの。んで、この作品のタイトルで著者が「懲役4年でどうすか」とか言ってるじゃん。
もちろん犯罪に大小なんつうものはないんだけど、前回扱った罪よりも重罪の人に対して、軽々しい求刑を行っていることが、この人の興味本位的、関係者神経逆撫で的傍聴姿勢を表してるなぁって思っちゃったわけ。まぁ、そういう意味では、著者の姿勢が表れてる素晴らしいタイトルだなと思います
まぁ、結局、後半に僕がいくつか挙げたポイント、これらに対して、「な〜に、固いこと言ってるんだよ」って思える人に向けては、




お薦めです!


ま〜た、長くなっちゃった。ごめんなさいね。でもね、本当はもっと言いたいことあったんですよ。
では、次回の6つの賽の目です。
1枠. 木村晋介「激論!「裁判員」問題」

激論!「裁判員」問題 (朝日新書)

激論!「裁判員」問題 (朝日新書)

また、裁判員関連書籍ですね。激論!ってある以上は、否定意見ばかりを伝えるメディアとの差別化を期待したいとろころですね。


2枠. 高橋ユキほか「霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記」

霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記

霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記

裁判傍聴ブログの書籍化です。これが課題作品になったところで、いつも通り「お薦めです!」と言える自信はありません。


3枠. 高橋ユキほか「霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記」

霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記

霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記

もはや自分のカード運のなさに辟易とします。


4枠. 丸太隆「裁判員制度

裁判員制度 (平凡社新書)

裁判員制度 (平凡社新書)

どうなの、このドストレートなタイトル。まぁ早いうちに裁判員関連の2作目は読みたいと思っていますしね。


5枠. 久保内統「あなたも裁判員―漫画で読む裁判員制度

あなたも裁判員―漫画で読む裁判員制度

あなたも裁判員―漫画で読む裁判員制度

これ選ばれること多いですね。漫画で裁判扱ってるものってあんま無いんで、これも早いうちに読みたいですね。


自己推薦の6枠. 阿曽山大噴火「裁判狂時代-----喜劇の法廷★傍聴記」

僕が裁判に興味を持つきっかけとなった、阿曽山大噴火さんの書籍。ラジオの話は聞いたことあるけど、本を読むのは初めてなんで気になります。少なくとも、今回のよりはイライラしなくて済むかな。


さぁて、6枠揃ったところで、2枠3枠以外を当てたいぞ……


Let'sサイコロTime!


ドキドキ
ドキドキ


5枠〜。
危っねぇ〜、「あなたも裁判員―漫画で読む裁判員制度」を読んでみます。

あなたも裁判員―漫画で読む裁判員制度

あなたも裁判員―漫画で読む裁判員制度

ちょっと安心。この安心が次回までに怒りに変わっていないことを祈るばかりです。