「男はなぜパンツ一丁で郵便局に押し入ったのか」
風の吹くまま、気の向くまま
何を読むかは賽の目次第
裁判博徒の看板背負って
歩いてみせます読書の天地
題して
The Book Review
今回、紹介する作品は、
産経新聞社会部取材班「男はなぜパンツ一丁で郵便局に押し入ったのか トンデモ裁判傍聴レポート」(小学館 定価1,365円)
男はなぜパンツ一丁で郵便局に押し入ったのか トンデモ裁判傍聴レポート
- 作者: 産経新聞社会部取材班
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2008/11/28
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 39回
- この商品を含むブログ (9件) を見る
内容(Amazonより):
ホントの喜怒哀楽は裁判所にあり。
精鋭の新聞記者が取材した膨大な数の裁判から、特に面白いものだけを選んだ裁判傍聴記集。フツーに生きていたら絶対に知ることのない驚きの事件が裁判所には毎日やってきます。そこで繰りひろげられた驚きの人間ドラマを、ジャーナリスト目線で見事に描ききります。平成21年5月の裁判員制度導入を間近に控え、裁判関連書籍が注目を集めるなか、裁判レポートの決定版といえる本書で、濃縮された「喜怒哀楽」をお楽しみください。挿画は人気漫画家・中川いさみ氏が担当しています。
著者:産経新聞社会部取材班
産経新聞社の若手を中心とした司法担当の記者さんたちだそうです。
と、いうことでレビューは「続きを読む」からどうぞ。
さぁ、ということで「褒めるのって簡単だと思ってたら、意外とすっげぇ難しいのね」型書籍評論コーナー「The Book Review」の第2回目でございます。
今回、取り上げる作品は、「男はなぜパンツ一丁で郵便局に押し入ったのか」という作品。
前回はね、ものすごい売れてる本の書評だったんで、人の目を気にしてビクビクしていましたけど、今回のは発行が2008年11月と比較的最近で、且つまだそこまで注目度が高いとは思えない作品なんで気が楽っていえば楽ですけどね。
内容は、産経新聞のwebサイトの中に、同新聞の司法担当の記者さんたちが裁判員制度を前に日本の刑事裁判の「生」の様子を「人間ドラマ」と称して【法廷から】というページで紹介するのがあるそうでして、このコーナーを加筆修正したものです。
つまりは、傍聴記です。
僕これ、課題作品になる前に、書店で並んでいるのを見て、ものすごい興味を思っていたので、課題作品になって即買いに行ったんですけど、前回みたいにタイトル買いして後悔みたいなのがあったので、そこまで強い期待をしていたわけではなかったのですが……。
それでは、実際に読んだ感想に移っていくわけですけど……。
まずね、僕、前のブログのときに、「裁判=面白い」っていう等式を表すことが結構多くてですね、ここで言ってる面白いというのは、笑う面白さじゃなくて、“interesting”つまりは興味深いって意味ね。
もちろん、笑っちゃうような裁判もあるんだけど、それはすべての裁判に言えることではないしさ。
ただ、興味深いとか言うと、たいていの事件には被害者の人ってのはいるもので、そういう人たちの気持ちを考えているのか、踏みにじってるんじゃないかという指摘を受けることはあるし、その指摘はもっともだと思うんだけど、もちろん僕はそんな気持ち毛頭もないし。
むしろ、人が罪を犯してしまった、それへの過程やら、もちろん被害者の方もいてっていう部分も含めて、それらを総じて見れる裁判を「興味深い」って思っちゃうのは、これ人として当然の心理だと思うんだよね。
で、この本なんですけど、その僕の中の「裁判=面白い」という等式を見事に具体化したものではないかなと。
どういうことかというと、……一応この話からするか、前回、内容はタイトルに引っ張られる必要はないけど、少しは触れてほしい的な話をしたけど、今回は、このタイトルがそのまま話の一題になっているし、その点は普通にクリア。
ってか、こんなのは当たり前で、前回が異常だっただけでさ。
じゃあ、この「男はなぜパンツ一丁で郵便局に押し入ったのか」というタイトル、そしてこの表紙絵。
男はなぜパンツ一丁で郵便局に押し入ったのか トンデモ裁判傍聴レポート
- 作者: 産経新聞社会部取材班
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2008/11/28
- メディア: 単行本
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「パンツ一丁で郵便局?」どんなおバカな理由なんだ?どんなおバカな言い訳するんだ?など、どんな形であれ、笑わせてくれるんだろうなという期待を持つと思います。
若干ネタバレになるんで、嫌な人は見ないで欲しいんですけど、このタイトルの裁判
ビックリするほど、シリアスな話題です。
細かい内容には触れませんけど、懲役二十三年ですよ。
単にパンイチで郵便局行ったくらいじゃ、もちろんこんな罪にはなりませんし、しかも結構凶悪な話で笑える部分やそういったコメントもないのね。
で、今まで数多くの他の方の傍聴記を見てきたけど、どれも話の切り口は、固い固いと思われている裁判って実はこんな面白いものなんですよってクスりとさせようとしているのが主なんだけど、今の例を筆頭にこの著者陣は、自分らの裁判の切り口によって笑わせる気があるとは全く思えないのね。
それが、不満だったというレビューを残していた方がいたのも事実。
じゃあ、それが悪いことなのかと言うと、僕はむしろ全く逆の意見なんですね。
裁判を面白く見せようとする傍聴記って、もちろん裁判そのものが面白いってのは大前提なんだけど、筆者のコメントなり突っ込みに頼る部分って相当大きいと思うし、その突っ込み(一般人から見た裁判の切り口)っていうのが、その傍聴記を評価しているポイントだと思うのね。
これ、僕もやっているんで難しい話なんだけど、結局そこで表されちゃう裁判っていうのは、自分が見て面白いなぁと思った裁判というよりは、著者がお届けする裁判になっちゃって、現実を忠実に再現するというのは非常に困難なんだよね。
だから、裁判を独自の切り口で切って、こんなに裁判って面白いんですよ〜っていうのは、その人の話が評価されているのであって、著者が本当に推したいであろう裁判そのものに関しては結果的に推せていないんじゃないかと思うんだよ。
そんな堅いこと考えずに、面白いんだからいいじゃんという意見は、それはそれでまっとうな意見だとも思うけどね。
で、話を戻すと、じゃあ笑わせようという切り口で書いていないこの作品が笑えないのかっていったら、これはまた違くて、裁判のやり取りだけをほぼ流しているだけなんだけど、これが非常に面白い。
この本、最初に立ち読みしたときに非常に素晴らしいなと思ったのが、裁判でのセリフの再現が多いことなのね。
著者の言葉が多くなっちゃうと、どうしてもその送り手が作る裁判になっちゃう部分はどうしてもあるから、セリフを多く流すことでリアルな部分というのは強く感じましたし、僕はそれだけで普通に笑えました。
これは、この作品の非常に秀逸な部分だと思ってて、僕がこの本で取り上げられた裁判を実際に見たら、もっと違う切り口で書くんだろうけど(だって、ストレスがたまって公然わいせつを行う男に、「じゃあ今後、ストレスがたまったらどうするんですか」に対し、「泣く」とか答えているのに、そこはスルーなんだよ。もったいない)、詳細な場面描写だけでその場の雰囲気に飲まれたのは、この著者陣の筆力が素晴らしいんだろうなと思います。
で、もう一つ素晴らしかったのが、もちろん面白い裁判もあるんだけど、僕が一番気に入っているのはFile3の「哀しき被告人たち」って書かれた章なのね。
その名の通り、もちろん笑えるわけじゃないんだけど、じゃあ哀しくて泣けるのかと言われたら別に泣けないんだけど、じゃあなんなんだよと聞かれたら……
なんかいいんだよ。
は?って思わないでね。
下手くそな褒め言葉並べるより、よっぽど言い表していると思っているんですから。
この本が題材としている「人間ドラマ」、実際にそんな言葉を聞いちゃうと、悲喜こもごも様々な感情が乱れあうみたいのを期待するかもしれないけど、実際って、あ〜なんか気付いたらこんな時間経ってたわって漫然と過ぎていくことって多々あると思うのね。
人の感情って、こういうことが起こりました→だからこういう感情になりましたみたいな単純な等式で表せない部分は多いから、「そこで、どうしてそうしちゃったかな〜」とか言う被告人に対するむず痒い思いが、著者の言ってる「人間ドラマ」って言葉にぴったりはめられちゃったんだよね。
まぁ、ここまで褒めまくってますけど、もちろん言いたいことはあって、なんていうか正義感が強すぎる。
反省の色を見せない自転車ドロのオバサンの判決に執行猶予がついたことに「不安を感じる」とか言ってるんだけど、裁判を長く見ている人だったらこんなこと言わないんだよね。
はっきり言って、自転車ドロなんて反省してようがいまいが、執行猶予はつくものだから。
これは、そういうものなの、っていう裁判の常識(?)に反しているから、いい悪いはともかく裁判というものに対してのリアリティは少し削っちゃってるのかなと思わなくもない。
ただ、扱ってる裁判は、判決まで責任を持って追ってるし、僕としてはもうちょい窃盗の裁判を扱ってほしかったけど、事件も比較的罪が軽いものから重罪まで幅広く見れる。
文章ももちろんわかりやすいし、読みやすい。
そして、必要以上に裁判の中身そのものについて独自の意見を持たない(持つことが悪いって言ってるんじゃないよ)から、より客観的な裁判を知れる。
これらの理由から、裁判傍聴をしてみようかなと思ってる人が、最初に手にする本としては、
お薦めです!
さぁ、長くなってしまいましたので、さっそく次回の賽の目です。
1枠. 丸太隆「裁判員制度」
まぁね、裁判の中身はもちろんですけど、裁判員制度というものに関心がある方も多いでしょうからね、一度はこういうのもやらないかんのでしょうね。
2枠. 門田隆将「なぜ君は絶望と闘えたのか」
これ表紙載せておきましょうね。
- 作者: 門田隆将
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/07/16
- メディア: 単行本
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すごく読みたい!……けど、レビューは難しそうだから嫌だというのが正直な思い。
3枠. 竹田昌弘「知る、考える裁判員制度」
また、裁判員制度モノですね。
まぁ、この関連書多いですからね、今後は制度本の読み比べとかしなきゃいけないんでしょうな。
4枠. 清原博「裁判員 選ばれる前にこの1冊」
またかよ、裁判員もの。
読んでないんだから知らないよ、類書との差なんて。
5枠. 田中克人「殺人犯を裁けますか?―裁判員制度の問題点」
これは、タイトルに惹かれちゃうなぁ。
このコーナー困るのが、課題作品じゃなくても、本の出費が嵩みそうなんだよね。
最後は、自己推薦枠ですね。
6枠. 板倉宏「知ってびっくり秘常識 裁判の「お約束」」
これも面白そうじゃないですか。
むしろ、裁判傍聴はじめての方って、傍聴記よりこういうの読まれたほうがタメになるかもしれないですね。
読んでないんで、適当なこと言えないですけど。
さぁ、6作品揃いましたんで、
Let’sサイコロTime!
ドキドキ
ドキドキ
3枠〜。
来ましたね、初めての裁判員制度もの、「知る、考える裁判員制度」を読んでみま〜す。
- 作者: 竹田昌弘
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/06/05
- メディア: 単行本
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