梅酒をふるまう男

裁判No.5
事件:「詐欺」 概要)食い逃げ
被告人:50代後半の男性
傍聴席:5人


裁判の中身が気になる方は「続きを読む」からどうぞ。


どうも皆さん、おはようございます、こんにちは、こんばんは「普通」です。
今回もはりきって参りましょう。


あ、そうそう、今回から以前のブログからの修正記事じゃなくて、新着記事になりますので、改めましてよろしくお願いします。


この前、弁護士を目指す大学生のブログっていうのを見つけたんです。
法律の勉強のために、一度、裁判の傍聴に行ってみたいという彼。
ここで彼に言いたい。
絶対にタメになるから、一度と言わず裁判傍聴をすることをお薦めします。
しかも、できるだけ早く。
それはなぜか?
早いうちに、ショックを受けておいたほうがいいに決まってるから。


裁判を初めて傍聴しに行く人って、殺人犯が見れると思っている人たくさんいるみたいなんですね。
でも、事件の大半は窃盗、覚せい剤、外国人の不法滞在が主で、殺人事件の裁判なんて僕だって少ししか見たことありません。
この肩透かし感(?)は詐欺という判例でも同じ。


「詐欺の裁判を見たい。そして、振り込め詐欺の案件を見て、詐欺師の劣悪な犯行を知り、予防策などを考えられればいいと思う」と語る彼。
僕、途中休んでいた期間もありますけど、約3年間の傍聴歴の中で振り込め詐欺の案件を見たのってたったの2件だけなんです。
窃盗を主に見ているという部分はありますが、それでも詐欺事件だけでゆうに30件は見ています。
では、詐欺事件で主に占めているのはどんな案件か。
それは、




食い逃げです。


振り込め詐欺を見ようと意気揚々と向かったはいいけど、食い逃げばっかり見せられて気分が滅入らないためにも、将来の法律家志望さんもぜひこのブログ「Re:傍聴.net」を今後ともよろしくお願いします。
さて、そんな下らない口上はさておき、食い逃げって詐欺事件になるんです。
これって結構、意外ですよね。
さて、そこで今回も出てきましたmini六法。
今回は友人からもらった、自称「甲子園の土」と一緒に写ってます。

第246条〔詐欺〕
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。(mini六法2005(平成17)年版、2005年2月8日、自由国民社


まぁ、今回は多少わかりやすいですかね。
食い逃げという観点から見るならば、商品を注文した時点で店員は金を持っているだろうと思いますから、それを欺いて食べ物(財物)を交付させてはいけないというごくごく当たり前のことなんですね。

被告人は50代後半のホームレスの男性。
被告人は所持金10円しかないのに、ホームレス友達と焼肉屋へ行き肉や酒など5,670円分を飲食しました。
この被告人の悪いところは、まぁやったこと全部悪いですけど、その友達にしこたま酒を飲ませて寝ちゃっている間に「あいつが払うんで」と言って店を出ようとしたんです。
その被告人の身なりなどから不審に思った従業員が、ちゃんとお金はあるんですか?と尋ねました。
どうせならそこで、あるって答えときゃいいのに「来月3日になったら払うよ」と何故か前言撤回をし、すったもんだの末に警察を呼ばれちゃったという事件なんですね。
被告人の両親は近くに住んでいて、事件の一月前までは一緒に住んでいたとのこと。
ならどうして、ホームレス生活が始まったのかという問いに対する、被告人の供述調書。


「逮捕の前にも2、3件ツケと言い、店の支払いをしなかった。それらは多分、母が払っていたと思う。でも最近は、母は何もしてくれなくなったので、家には帰らなくなった。」


何言ってるの、コイツ?
もしかして、今まで支払っていてくれた母親に対して今は怒ってるの?
ちなみに、被告人のこと50代後半って言ってますけど、正確には59歳なのね。
ということは、その母親っていったら少なく見積もってもまぁ80歳くらいじゃん。
80だよ、80。
僕、別にお婆ちゃんっ子じゃないですけど、これは許せないでしょ。
ちなみに、これがまだ若い母親とかだと、何を今まで甘やかしてきたんだよってなるんだけど、80のお婆ちゃんってなると、そんな無理しちゃダメだよお婆ちゃんって優しい言葉をかけたくなっちゃうのは僕だけ?
では、被告人質問。

弁「今回で裁判にかけられるの12回目だよね。前刑も食い逃げだったし」
被「いやはや、なんともお恥ずかしい限りで」
弁「今考えるとね、今回の件、どうして事件を起こしてしまったんですか?」
被「自分の意思の弱さだと思います
弁「意思の弱さとは具体的にどういうことですか?」
被「酒を飲む前は大丈夫なんですけど、飲むと善悪の判断がつかなくなっちゃうんですよ
弁「じゃあ、これからはどうしていくつもりですか」
被「お酒は飲んでも飲まれないようにしたい


やっぱねぇ、前科11犯だったりすると、やたら無暗に反省しています、もうやりませんとか言わないのね。
説得力無さ過ぎるもんね。
しかも、酒を飲むとダメだってことは認識しているのに、酒を止める気は全くないからね。


さて、ここで皆さん、今の弁護士と被告人のやり取りにあった矛盾点に気付きませんでしたか?
矛盾っていうか、訳わかんないことだらけだよと言ってしまえば、それまでですが。
矛盾かつ、この事件における被告人の犯罪の意思という重要なものです。
ヒントを言うならば、事件の時間軸に照らし合わせた上での被告人の弁が矛盾しているということです。
検察官は終始、被告人に酒を飲ませないよう説得していましたが、はっきり言ってこの人は止めないですよ。
それに、焦点はそこじゃないのに……。
このモヤモヤした気持ちを解消すべく、裁判長が突っ込んでくれました。

裁「え〜っと、事件を起こしたのは自分の意思の弱さであると」
被「はい」
裁「お酒はいつ飲んだの?」
被「焼肉屋でウーロンハイを4、5杯ほど」
裁「店に入る前は飲んでいなかったの?」
被「はい、お金もないんで
裁「じゃあさ、今回シラフで店に入ったわけだよね?所持金10円しか持たずに。それで、酒に飲まれてしまって今回の犯行を行ってしまったというのは筋違いの主張なんじゃないの?


これ、そうなんですよ、皆さんわかりました?
つまり被告人は、酒を飲むと善悪の判断がつかなくなるから、ここで言うと意思の弱さが出て食い逃げをしてしまうという言い分なのに、最初から支払い能力がなく、酒にも飲まれていない状態で店に入るということは酒云々の前にヤル気満々だったんでしょ、と言いたいわけ。
そうしたら被告人、言ってやりましたね。

被「ちょっと何言ってるかわかんないです


何で何言ってるかわかんないだよ!っていうサンドウィッチマンの伊達ちゃんばりの突っ込みを心の中でしつつ

裁「だから、そもそもが無銭飲食をやろうっていって」
被「別に言ってはないですよ」
裁「(無視)シラフで店に入ったんだから、酒云々は関係ないでしょ」
被「でも、金は払うつもりでした」
裁「払うつもりったって10円しかなくて、どうやって払うの」
被「……払う意思はありました」
裁「意思だけじゃどうにもならないでしょ」
被「でも、意思はあるんですよ」


正直、不謹慎ながらこの辺り笑いをこらえるの必死でした。
今まで、散々母親に払わせておきながら、ここは払う意思はあったと頑なに主張する被告人。
ちなみにこの人、前科11犯のうちの一番最初の事件というのが、母の梅酒を勝手にホームレスにふるまったところを母に怒られ、それに対して逆ギレして、母の簡易保険を勝手に解約し金を使い込んだという、どこまで親をナメてんだという事件を起こしたそうです。


さて、検察官は被告人の規範意識の頓馬を危険とし懲役二年六月を求刑
ここで、弁護士も情状酌量を求める弁論を行って終結するはずなのですが、弁護士が用意した資料に、なんだか不備があったそうで弁論ができなくなっちゃったんです。
そんなわけで、普通ならその日ですべてが終わる弁論以下の手続きを次回以降の裁判で行わなければならなくなりました。
そこで、次回期日を決めていたんですが、そこで裁判長から衝撃のお言葉。
ってか、これ「裁判官の爆笑お言葉集」に入れてくれねぇかな。

裁判官の爆笑お言葉集 (幻冬舎新書)

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裁「あの君(被告人)さぁ、どっちにしろ刑務所入ることになるんだけどさぁ、遅く入るのと早く入るのとどっちがいい?


まぁね、累犯なので執行猶予つかないのはわかっているんですけど、判決言う前に、そんなこと言わなくても……。
突然のことにぽか〜んとしていると


裁「刑務所寒いよね?こっちの方が温っかいか?
まだ続くか、おい。
被「いやぁ、どっちでもいいですよ。


最近はどちらかというと刑務所のほうが温かいくらいですから


すると、裁判長始め、検察官、弁護士「ワハハハ」とか声に出して大爆笑。
ってか、弁護士は笑っちゃダメだろ。
はっきり言って、この人どうせまたやるし、裁判や刑務所の仕組みを熟知しているだろうから、こんな冗談みたいなこと言えたと思うんだけど、いやぁ衝撃的でしたね。
とりあえず、この人が今後何をしてどうなろうと、正直知ったこっちゃないですけど、80歳くらいであろうお母さんはどうにかして保護の手を差し伸べてほしいと思いました。