森が気になる女

裁判No.6
事件:「窃盗」 概要)万引き
被告人:60代前半の男性
傍聴席:1人


裁判の中身が気になる方は「続きを読む」からどうぞ。


どうも皆さん、おはようございます、こんにちは、こんばんは「普通」です。
今回もはりきって参りましょう。


次回かな、次々回かな、また「The Book Review」のコーナーをやる予定なんですけど、このコーナー正直失敗したかなと思ったのが、いちいち本を買わなきゃいけないことね。
僕の家の近くにはあまり大きな書店はないので、だいたい新宿の紀伊國屋書店へと本を買いにいきます。
僕、昔から書店が好きでね、学生のときは新宿の紀伊國屋本店南店新宿ルミネ1のブックファースト神保町の三省堂書泉なんかはよく行きましたね。
なんでだか、池袋のジュンク堂はあんま行かなかったなぁ。
書店の括りにするのはあんま好きじゃないんだけど、TSUTAYAなんかもCDを借りるついでにちょっと本を覗くってのに使いましたね。
最近の書店って、さっきのTSUTAYAじゃないですけど本だけじゃなくて、他にもいろいろな商品と一緒に扱っているなんてのが多かったりもします。
CD、DVDのレンタルや販売、買った本をその場で読めるように喫茶がついていたり、文房具、雑貨、化粧品、果てには焼き肉屋との複合店舗もあるとか。
さて、それを踏まえまして、今回の判例に移ります。

被告人は60代の男性。
被告人は紀伊國屋書店流山おおたかの森にて、転売目的でアニメのDVD BOXを2つ、約37,800円相当を窃取し、持っていた手提げ袋に入れて持っていこうとしましたが、防犯ゲートが鳴って犯行が発覚しました。
店員がアラームで駆け寄ったところ、被告人は「知らねぇよ、俺じゃねぇよ」と言って必死に逃げようとしましたが、店員が警察を呼ぶぞと言うと、「ごめんなさい。お願いします、警察は呼ばないでください」と態度を一変させます。
被告人には同じような前科が2犯あり、現在はホームレス生活。

盗んだものが店頭のゲートに引っかかるなんて初歩のミスを犯しているので、てっきり“刑務所に入れば食事も出るし、むしろ楽できるから盗っちゃお”型の犯行かと思ったら、警察を呼ばれることにはビビっていたようです。
そして、被告人から驚きの言葉が、

被「お金なら持っているんです
この人、ホームレスはホームレスですけど、漫画喫茶に寝泊まりしていたようで、多少は持っているのだろうなと思っていたら、このとき21万円持っていました。

もちろんね、所持金がなくなったからといって窃盗をしていいわけありませんが、少なくともこの被告人は、この時点では金銭で逼迫はしていなかったようです。
備えあれば憂いなし的な犯行でしょうか。
では、被告人質問に移りましょう。

弁「今回で裁判にかけられるの3度目だけど、どうしてまた万引きやっちゃったのかな?」
被「特に意味とか理由はないです」
弁「しちゃいけないとわかってて、やっちゃうの?」
被「はい……何の気のなしというか」
弁「何の気なしって散歩するような気分みたいに言われてもね
被「別に散歩する気分とは、また違いますけど
そりゃそうだ。
そんなの弁護士だってわかってるよ。
弁「今まで、起訴されなかったり、見つからなかったりで成功したケースもあるんでしょ?」
被「……はい、あります」
弁「正直でよろしい。今後、社会復帰したらどうしていきますか?」
被「兄弟と相談して決めていきたいです」


この、のらりくらりとした問答に、被告人はもちろん弁護士もヤル気あるのか疑ってしまいます。
犯行の動機や反省の弁を引き出せないなら、被告人質問なんてやる意味ないと思いますけどね。
ここで弁護士が引き出したことといえば、正直者ってことと実はもっとやってるってことくらい。
その代わりに検察官は突っ込んで聞いてくれます。

検「あまり考えないでやっていると言う割には、隠すための布を用意したりと用意周到なんじゃないですか?」
被「布は、別に隠すとかそういう意味で持っていたんじゃありません」
検「じゃあ、なんで布なんて持っていたんですか?」
被「ただ、持っていたかっただけです」


「ただ、持っていたかった」といった布持ちたい願望というのは、僕にはないですけど、単に持っていただけだというのは、まぁ納得できなくもないです。
犯行当時、盗品が布に包まれていたとかならまだ犯罪意欲を証明してもいいですけど、特にそういった話もなかったんで、なんとなく布持っていた説を採用してもいいのでは?
だって被告人は、漫画喫茶を行き来するホームレスだから、公園に寝床を作っているホームレスと違って外出時は常に手荷物はすべて持っていたんだと思うし。

検「ホームレス生活が始まったきっかけはなんだったんですか?」
被「昨年、仕事を退職いたしまして、借金等をすべて返したら家賃が払えなくなったので、家を出ることにしました」
検「漫画喫茶で寝泊まりしていたそうだけど、どうやって生活していたんですか?」
被「パチンコをしながら生活していました」
検「今回のように、盗品を売って生活していたんじゃないんですか?」
被「確かに、何度かはそういったこともしましたが、あまり高くは買い取ってはくれないので……」
検「例えそうだとしても、パチンコですか。ギャンブルに使ったら、すぐ所持金なくなるとは思わないんですか?」

そりゃそうだ。
パチンコを始めとして、ギャンブルにお金をつぎ込んでホームレス→窃盗で裁判って流れはこっちだって嫌というほど見ているんだから。

被「いえ、そんなことないです」
検「なんで、そんなこと言えるんですか?」
被「私ギャンブルに対して、深くはのめり込まないんです。家を出た時の所持金が14万円でしたから、大事に使っていれば大丈夫でした」


皆さん覚えていますか、被告人が捕まったときの所持金。
そう、21万円です。
もちろん盗品の売却もしていたのでしょうが、ホームレス生活を始めて約半年で14万から21万と確実に財産を増やしています。
なんと立派な資産運用。

検「なんとか生活はできていたみたいだけどね、今後もまた漫画喫茶で寝泊まりするんですか?」
被「今後、兄弟に相談していきたいと思っています
検「あなた都内にお兄さんが住んでいますよね。一緒に暮らすことなどはできるんですか?」
被「それも、兄に相談していきたいです
検「社会復帰後、仕事を探す気持ちはあるんですか?」
被「それも、相談していきたいです

それは、お前が決めろ
あなたの意思を聞いているんだから。


と、ここまで書いてきましたが、正直話が若干小振りな感じがするのでブログに採用するかどうか迷っていたんですよね。
でも、裁判長が最後に持っていってくれました。
そして、冒頭の書店の話云々がここで活きてくるのです。

裁「検察官。提出された証拠によると、被害店舗は紀伊國屋書店流山おおたかの森店となっているのと、紀伊國屋書店Forestと2種類あるのですが、これはどちらが正しいのでしょう?」
検「(書類をパラパラとめくりながら)すみません、ちょっと調べられておりません」


説明しましょう。
紀伊國屋書店の何店舗かは店舗内に別ブースみたいな形で、書籍だけでなくCDやDVDを販売している店舗があって、その売場のことを「Forest」と呼ぶのです。
だから恐らくは、「紀伊國屋書店流山おおたかの森店Forest」と明記するのが正解なんだと思います。
ものすごい、そこを指摘してあげたいのに、傍聴人に発言権なんぞありませんので、ものすごくムズムズしていました。
なおも必死に、裁判長、検察官、弁護士は提出された証拠に目を走らせています。

検「申し訳ございません。次回公判までには、調べて参りますので」
裁「あ、これもしかしてアレじゃないですか?




紀伊國屋書店流山おおたかの森の森とForestがかかっているのでは?


だぁ〜違うんだよ〜。
もう、言いたくって言いたくって、体中がなんだか痒いこと痒いこと。
とりあえず、被告人には懲役一年六月が求刑されていました。
この裁判、これ以上追わなかったので、結局判決はどうなったのかは知りません。
はっきり言っちゃうとね、窃盗のオッサンなんてどうだっていいですよ。
ちゃんとした証拠も作らないで、傍聴人をそわそわさせた検察官の方がね僕に言わせりゃよっぽど重罪ですよ。
裁判長もムズムズしている僕にさえ気付いて意見を求めてくれればね、今回の日記も「法廷で熱弁する男」にタイトルが変わっていたのになぁ……。